真岡鐵道 SLレンタル運転の壁

 北関東の第三セクター鉄道、真岡鐵道には蒸気機関車が2両在籍しているが、このうちの1両を他社へ「レンタル」することもあり、2002年6月末現在で2回、真岡鐵道線以外を走った。車両を他社へ貸し出すことは京成電鉄が北総開発鉄道に3150系をリースしている(北総では7050系と称する)例があるが、SLを、それも条件があえばどの路線にでも貸すという、それ自体を目的とするのはユニークな施策といえよう。

上々のSL人気を背景に芳賀路を走る

 真岡鐵道はSLが走る第三セクター鉄道としては全国で唯一。今やSL運行は同社の目玉であり、首都圏を中心にSL列車の試乗に真岡を訪れる人は絶えない。また、架線のないすっきりした路線を走ることで撮影派のファンにも好評である。

 2両のSLは1994年3月に投入されたC12形66号機と、その4年後、1998年11月に投入されたC11形325号機である。それぞれ真岡に入線する前に展示保存されていた土地にちなんで、福島県川俣町で保存されたC12は「川俣号」、新潟県水原町にいたC11は「水原号」の愛称がつけられている。これらのSLは真岡鐵道線を走るが、正確には、C12は沿線自治体等が結成した「真岡線SL運行協議会」の、C11は真岡市の所有で、運行と保守を真岡鐵道が受託する形になっている。2両は土曜・日曜を中心にローテーションを組み交互に運転される。また、こどもの日、鉄道の日、「栃木県民の日」のイベント実施日など節目の日を選んで、年10日、重連での運転を行なう。また、こうしたSLの実情をふまえて、常時は使用しない1両の他社への貸し出しを開始した。

借りたい鉄道事業者は多いのだが…

 大井川鐵道や「SLやまぐち号」「SLばんえつ物語号」の例をあげるまでもなく、SL列車は多くの乗客でにぎわい、レールファン以外の人気も根強く、町おこしの手段としてSL乗車を組み入れたイベントは有効であると考えられている。鉄道事業者としてもSL運転によって全国的な知名度が上がれば、乗客増も期待できる。

 しかし、国鉄からSLが引退して27年が経過し、全国各地で静態保存されている車両についても、復元可能な状態のよいものは少なくなっている。億単位にのぼる費用も、SLの復活を困難にしている。

 そこで、真岡鐵道によるSLの貸し出しに期待が寄せられる。同社が当初2両目を導入したのも、年間を通して安定したSL運行をすることが第一の目的で、そのための予備機としてC11を復元、車籍復活をした。しかし、通常は1両での牽引となるので、もう1両は空いている。さらにC11もC12もタンク機関車のため逆向運転が容易で、ターンテーブルを要しないことも借り手にとっては好条件の一つである。そこで、SLの夢を少しでも広げるために他社へ貸し出すという考えが当初からあった。

 1回目の貸し出しは1998年12月、JR北海道留萌本線をNHKのドラマ「すずらん」撮影用にC12が、2回目は2001年10月にJR東日本只見線全通30周年記念列車としてC11が出張した。過去2回ともJRで、民鉄路線ではまだ実現していないのは、SLを貸し出すにも受入れ先に難点があるからだ。

 まず、多くの民鉄には蒸気機関車の運転士、さらに保守要員がいない。しかも石炭や水の準備などSL運転に欠かせない施設が整っていない場合がほとんどである。通常はSLが走らないのだから当然といえば当然だ。また、大半の民鉄の車両は電車や気動車が中心で、SLが牽引する客車がない。SLだけを借りられればことが足りるというわけにはいかないのだ。

 一方、真岡鐵道としては機関車だけしか貸し出せない事情もある。運転・保守要員は最低限の人数、客車は50系客車3両しか保有していないので、スタッフや客車まで貸し出してしまうと自社での運行ができなくなる。では、同社で要員を育成し、本格的にSL貸し出しを事業として展開してはという考えも生じるが、それもむずかしいそうだ。通常は不足がないところで特別なときのために要員を増やすのは、人件費や物件費など経営上の根本的な問題となる。

 真岡鐵道も他の第三セクター鉄道同様、赤字に悩んでおり、SL運行の収支は真岡線SL運行協議会の別会計になっている。また、要員を増やす余裕があったとしても、運転士はそのつど運転路線のカーブや速度制限などを覚えなければならず、習熟訓練に時間がかかってしまう。

 ゆえに、国鉄を継承したJRならSLを経験した乗務員もまだ存在しており、貸し出せることになる。これまでに下館駅で真岡鐵道と接続する関東鉄道などから申し出があったそうだが、いずれも先述の条件から民鉄でのSLの運転は実現していない。

レンタルにSL協議会も「問題はなし」

 過去2回の運転は、2両のSLが1回ずつであったが、これからはC11がおもに出ていくことになるだろうという。設置されている保安装置の違いによるもので、C12にはATS-Sが、C11にはATS-SNが設けられている。JR線に普及しているのが改良型のATS-SNであるからだ。

 同社にSLが来た当初は連日満員の乗客を運んでいたが、2年目から減少傾向に転じC11が加わった1998年には若干持ち直して、現在は上下列車平均で45〜50%の乗車率となっている。

 なお、5人の運転士は、JRからの出向が3人、プロパーが2人で、今年に入り1人が甲種蒸気機関車運転免許を取得した。同様に保守要員は、国鉄OB、JRからの出向、プロパー各1人ずつ、計3人である。

 真岡鐵道と二人三脚でSL列車を運営し、SLの本来の所有者である真岡線SL運行協議会としては、SLの貸し出しに関して基本的には対応したいとする。  今年の出張運転は、昨年に引き続き只見線で行なわれそうである。先述の条件がクリアでき、さまざまな路線に貸し出されるならば、「SLの夢」はどんどん広がってゆくのだが…

(2002年9月号: 真岡鐵道のSL「レンタル」運転の壁)

 


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:56:36 JST