冬の人気もの JR西日本の「かにカニ エクスプレス」 †冬の味覚と言えば、「カニ」を思い浮かべる人も多いことだろう。関東に住む者にとっては年末・年始の宴会や温泉地への一泊旅行などでお目にかかる程度で、ふだんはあまりなじみがない。ところが、カニの本場が近い関西では、だれしも木枯らしの季節ともなればカニが恋しくなると言っても過言ではないらしい。 そのためだろうか、京阪神から日本海沿岸へ向けて、このシーズンに「かにカニ」と銘打った列車が運行されている。その名のとおり列車に乗ってカニを食べに行くのが目的で、1998年の誕生以来3年、すっかり定着したようだ。企画の人気の秘密はどこにあるのだろう。 体験型観光を提案する「駅プラン」 †「かにカニ日帰りエクスプレス」は、往復に列車を利用して、山陰・若狭・北陸などへカニを食べに行くという旅行商品で、JR西日本のみどりの窓口で「駅長おすすめ駅プラン」として発売されているものの一つだ。「かにカニ」列車とは、11月から3月に設定されるこのプランに合わせ、京都・大阪から運行される全車指定席の臨時列車のことを指す。日帰りプランには、往復のJR指定席特急券と乗車券、カニ料理の昼食代を含んでおり、いずれのコースも1万〜2万円程度に価格を抑えている。温泉入浴のサービスもあって、駅プラン全体のなかでも人気が高いという。 行先は、城崎・竹野・香住・天橋立・鳥取、あるいは北陸などで、目的地までの列車、旅館での食事を組み合わせた豊富なバリエーションが用意されている。そのラインナップは50コースにおよぶ。 「かにカニ」列車は、大阪などから山陰・福知山・播但・智頭急行線の各方面へ、土休日(年末年始を除く)を中心に定期列車を補完する形で運転されている。その愛称も「かにカニ北近畿」のように、定期列車の愛称に「かにカニ」を冠したものが多い。 車両は、「かにカニ香住」がキハ65形(旧エーデル鳥取車)4両または5両編成、「かにカニはしだて」「かにカニ文殊」が183系の4両編成、「かにカニ北近畿」が183系4両または381系6両編成、「かにカニはまかぜ」がキハ181系5両または6両編成、「かにカニ但馬」がキハ58系5両編成、「かにカニ鳥取」がキハ181系3両編成と総動員体制で、非常にバラエティに富んでいる。 日帰りプランができる以前は、一泊の旅行客向けに京都・大阪を土曜日の午後に出て、翌日曜日の午後に戻る「味めぐり」列車として運行されていた。しかし、日帰りプランの登場で、臨時列車を拡充し、列車の名称を「かにカニ」に統一している。 では、「駅プラン」とは、どういうものなのだろう。JR西日本の主要駅には、さまざまな駅プランのパンフレットが並べられている。例えば、丹波路の松茸会席、有田のみかん狩り、近江牛のしゃぶしゃぶ食べ放題、但馬牛と出石そば、宇部のゴルフプラン…などがあり、西日本のエリアを越えて四国へ「高松までうどんを食べに行く」プランや、京都から西九条まで特急「はるか」に乗ってUSJへ行くプランなどもある。 これらのプランに共通するコンセプトが「体験型観光」だ。つまり、プランの中身はJR券プラス「昼食などのシンプルな特典」とし、それ以外の行動は利用者自身に任せることで自由度を高めている。往復の列車も土休日ならば複数の列車から選べ、昼食時間にも一定の幅がもたされている。2名以上での利用という規定はあるが、家族や小グループでも参加しやすい。 「かにカニ」列車は、最初から「食」を目的とした列車の運行を計画したものではなく駅プランのなかで好評だった「食」をテーマにした商品「かにカニ日帰りエクスプレス」に対応して運行されている。あくまでも、土休日に座席が不足する定期列車を補うことが目的となっている。 日帰り旅行の新たな市場を開拓 †日帰りと言えば、今やバスツアーが盛んだ。手ごろな料金で名物料理や温泉、観光などを楽しめるこの種のツアーは、近年の「安・近・短」志向にマッチして幅広く受け入れられ、すっかり定着している。しかしバスツアーは団体行動が原則で、参加者が自主的に行動できる余地はあまりない。何より、列車は車中でも動きやすいし、行程自体もゆったりとしている。 かにカニ列車を運行し始めたころは、日帰りバスツアーとの競争も視野に入れて、プランを組んでいたそうだが、あれこれと要素を詰め込むのでなく、個人の選択の余地を残して列車の旅のゆとりを生かすことで差別化を図った。その結果、列車とバスそれぞれに棲み分けができてきたようだ。 最初は、香住・竹野・城崎を目的地にスタートした「かにカニ日帰りエクスプレス」も、利用者の声を反映して、翌1999年には天橋立、2000年には北陸と鳥取、さらに今年は、三朝温泉と舞鶴を加えてコースの幅を年々広げており、京阪神地区からの日帰り圏はほぼカバーしている。 また、よりグレードの高いプランを求める利用者の要望に応え、行き帰りの列車でグリーン車を利用し、旅館ではカニのフルコースを個室で食べるという「極みプラン」が昨年から登場し、今年はさらに施設数を増やしている。もともと、平日は土休日よりも1,000円安い料金設定だったが、これも利用者からの要望で、平日の参加者には料理や酒、海産物のお土産など、さらなる特典を設けている。 「かにカニ日帰りエクスプレス」の利用者は、1年目の1998年度が約48,000人、1999年度が約72,000人、2000年度が約89,000人で、年々増加傾向にある。ビジネスなどの所用でも、昼食付きの往復特急指定券だと考えれば、このプランの利用価値は意外に広がるのかもしれない。 今年度のかにカニ列車の運転予定は481本で、ほぼ昨年なみ。「かにカニ日帰りエクスプレス」プランの設定期間は、11月7日から来年3月21日(12月25日から1月8日は除く)までの120日間となっている。 スタート当初は、JR側の持ちかけであった旅館でのサービス内容も、次第に両者から提案がされるようになり、毎年、新たな商品が開発されている。 低迷が続く国内の観光業だが、日帰りの身近な観光地に、人々の旅心をくすぐる素材が、まだ隠されているかもしれない。 (2002年1月号: 冬の人気もの JR西日本の「かにカニ エクスプレス」)
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