のぞみ朝割きっぷ

 本年(2002年)7月1日、JR西日本はJR東海と共同で、岡山・広島地区から横浜・東京に向けた日帰り専用の往復割引切符、「のぞみ朝割きっぷ」の発売を開始した。当初は岡山からは6時05分発「のぞみ2号」、広島からは6時28分発同4号が上りの利用可能列車に指定され、下りは自由に選択できる。普通切符の岡山〜東京間往復は33,340円、広島〜東京間は37,080円だが、「朝割」は前者が25,000円、後者が30,000円で、20〜25%の割引率となっている。当初の設定は8月末までだったが、9月末まで、さらに11月末までの発売期間延長が行なわれた。それとともに、10月ぶんからは岡山発については2号に加えて4号も利用可能とし、選択の幅を広げている。

 「のぞみ朝割きっぷ」は、そのネーミングからも推測できるように、近年の航空の割引に対抗するものといえる。また、旺盛な需要を誇る東海道新幹線に関連する商品としては割引率の高さが特筆され、東海道・山陽両新幹線にまたがるものとして、回数券タイプ以外の割引商品は初めてである。

 東京〜岡山間の新幹線と航空機のシェア争いは1993年度は78:22、東京〜広島間は53:47だった。対広島はほぼ互角と言えた。しかし、2001年度は前者が66:34、後者は41:59なり、対広島は航空が優勢、対岡山も航空が伸してきている。東京対九州(小倉・博多)となると7:93でまったくの航空機の独擅場である。

 航空機がシェアを伸ばす理由は、羽田発着枠の拡大による増便、なにより近年のダンピング運賃の定着があるが、西日本地区においては1994年、阪神大震災で新幹線が途絶したさい航空にシフトした人たちが新幹線復旧後も航空に残ることとなり、新幹線が旧に復さないことも一因という。

 とくに航空利用者はビジネスマンや所用など、短期旅行者も多い。新幹線で岡山・広島から首都圏を往復する人のうち、日帰りの比率は約2割という。こうしたことから、日帰り利用を新幹線に引き戻し、増やそうと試みられたのが、「朝割」である。上りの利用可能列車は限定されるが、日帰り利用者がターゲットなので、東京着が昼近くなっては利用自体が期待できない。

 価格は、航空の特割運賃をベースに空港〜都心間のアクセス運賃なども加味して設定されていることがわかる。20%以上の割引は東海道新幹線としては異例だが、山陽新幹線直通旅客の減少は、とりもなおさず首都圏〜新大阪間の長距離利用の減少であるため、共同歩調をとったようだ。

 一方、岡山・広島発があって東京・新横浜発がないのは利用率に起因するもので、山陽新幹線新大阪〜西明石間でとった首都圏直通旅客の乗車率は上り「のぞみ2号」が2割、同4号が4割であり、実態として空席が多く、旅客の掘起しが必要となる。これに対して、東京早朝発の下り各列車は直通客だけで6割に達するほどの混雑ぶりで、輸送余力がなく、割引商品による需要喚起にはつながりにくいためと説明される。

 現在のところ、「朝割」設定期間は11月までとされるが、次第に周知されてきていることから、JR西日本としては10・11月の流動の多い時期の動向を見きわめ、それによる期間延長も考えることになろう。

(2002年11月号)


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:56:37 JST