JR四国のキャラクター商法 「アンパンマン列車

 JR四国の「アンパンマン列車」は、2000年10月14日に土讃線にブルー地の2000系4両編成が登場して以来、2年を経過した。その間、土讃線にはピンク地の第2編成が2001年3月から、予讃線では1両ごとに色とキャラクターが異なる2000系11両が同年10月から走り始めた。

 いずれも、車体外部にアンパンマンのキャラクターをふんだんに描いた車両である。2002年10月からは、徳島線と高徳線に185系の中間合造車の車内を改造した専用車両1両を投入して、土休日を中心に「ゆうゆうアンパンマン号」として運転を開始した。装飾にはラッピングフィルムを用いている。

高速道路との対抗から誕生

 そもそもアンパンマンとは、高知県出身の絵本・アニメ作家として著名なやなせたかし氏の作品「それゆけ!アンパンマン」の主人公キャラクターで、幼児から小学校低学年世代に、長らく大きな人気を博してきた。この功績を称え、また町興しにと高知県香北町に1996年7月、町立やなせたかし記念館「アンパンマンミュージアム」が開設された。ミュージアムは、土讃線土佐山田駅からJRバスで20分強の場所にある。

 この一方、JR四国の土讃線特急は四国横断自動車道(高知自動車道)の開通によって1991〜93年ごろをピークに利用者の減少が続いていた。これに対して、JR四国は高速型車両への置換えを進めるなどで対策を打ってきたが、マイカーなどに流れた利用者を引き戻すには至らず、さらなる対策を模索している最中にあった。その中でふと出されたアイデアの一つが、「アンパンマン」の活用である。

 しかし、それをどのように鉄道の営業に結びつけるかについては、当初は暗中模索の状態であり、必ずしも大きな成果を期待したわけでもなかったようである。とりあえず2000系気動車4両1編成の外回りにラッピング装飾を施した。これが最初のブルー地のアンパンマン列車である。

 ところが、ひとたびこの列車が走り始めると、沿線や駅には見学者が多数訪れるようになり、運転開始から2ヵ月めには乗客数の増加という数字になって具体的にプラス効果が現われ始めた。列車の人気が出てくると、駅には問合せが相次ぎ、こうした周囲からの攻勢により、JR四国ではほどなくピンクの第2編成を用意する。

 一方、人気が出て見学者が絶えないのは喜ばしかったが、中には駅にクルマで乗り付け、列車を見送ったらそれで帰ってしまう人々も多かった。そうした層を取り込むことも、次第に営業作戦の俎上に上る。

 2本のアンパンマン列車の中の細かい仕掛けに、キャラクターの仕草の小さな違いがあった。これを題材にしたクイズ形式のスタンプラリーを2001年12月、閑散期対策として実施した。そのさいのプレゼント応募用紙は車掌が配布することとして、列車に乗ることが条件となった。

 土讃線での効果が顕著なものとなると、次は、予讃線でもという声につながる。それに応じて加わったのが、予讃線の11両である。こちらのケースでは、運用の都合から編成を通じて色やキャラクターに一貫性をもたせる手法が取れなかった。また、土讃線との違いを打ち出すためもあり、1両ごとに異なるメインキャラクターを決め、ベースの色も変化させている。

次なるステップとして車内も改装

 高松・高知・松山の3県庁所在地駅でアンパンマン列車が見られるようになると、最後は徳島が取り残される形となった。すでにJR四国の特急といえば、アンパンマンと密接に結びつくようになっており、地元はもとより、「四国(徳島)にでかけたがアンパンマン列車に出会えなかった」という旅行者の不満も聞こえてくる。

 一方、土讃線と予讃線の列車では実現できなかった、さらなるワンステップを形にしたいとの思いが、JR四国の中にも起きていた。それは内装に手をつけることであった。土讃・予讃両線の場合、通常の運用に必要な車両数などを勘案すると、特別車両を用意することはむずかしい。また、子供たちが車内ではしゃぎ回るようでは、一般の利用者にとっては迷惑なこととなる。このため両線のアンパンマン列車は、内装にまでは手をつけられなかったのである。

 それに対して、高徳・徳島線では以前の主力車両であったキハ185系が2000系に混じって使用中であり、とくに普通車・グリーン車合造の中間車、キロハ186形には余裕が生じていた。そのキロハ186-2を活用して、車内改装した車両が作られた。

 普通車客室の座席をすべて取り払い、アンパンマンの絵柄のマットやクッションを敷き詰め、幼い子供が少々はしゃいでもケガをしないような空間とした。アンパンマンは壁や天井を含めて六方のすべてに登場する。一方、グリーン車客室は、グリーン車の座席はそのままに普通車指定席としたが、やはり内装はアンパンマン一色に変えている。いわば親の控えの間であり、一般客が利用するための普通車とは言えない。

 この専用車を投入するにあたり、指定席にするか、自由席にして広く門戸を開くかは、意見の分かれるところであった。しかし、もしも子供づれであふれるような状態になった場合に、車掌がその権限内で人数を制限できる方法は、指定席利用者に限定することが最善の策と考えられ、この車両は指定席となった。思惑どおりの利用があれば、収入面の期待もかけられる。

 このキロハ186形を組み込んだ編成は「ゆうゆうアンパンマン号」と名づけられ、土休日の高松〜徳島間の「うずしお5号」と、徳島〜阿波池田間「剣山」の5・7・8・10号の2往復で運転される。指定席の定員が20人程度ということもあり、営業開始以来、ほぼ満席の状態が続いている。

 JR四国にとって「アンパンマン」は、もはや一過性のイベント用キャラクターではなく、重要な営業戦略の一つであり、鉄道事業の中心にかかわってきている。

(2003年2月号: JR四国のキャラクター商法 「アンパンマン列車」の成長と成果)

 


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:56:38 JST