高齢者層に人気のジパング倶楽部

 旅は老若男女問わず楽しいもので、若者には若者の、高齢者には高齢者の旅のスタイルがある。駅にはさまざまな旅行商品のチラシが置かれ、われわれを旅に誘っている。それととともに、高齢者向けの会員制旅行クラブである「ジパング倶楽部」のパンフレットも目に付く。手に取ると、男性は満65歳以上、女性は60歳以上、夫婦はどちらかが満65歳以上であればそろって入会できるとあり、JRの運賃と一部の料金が2割・3割引で購入できると記されている。

 高齢者層を対象とした会員制のクラブ、「ジパング倶楽部」の主旨・活動内容などについて、JR東日本ジパング倶楽部事務局で尋ねた。

国鉄時代に誕生したジパング倶楽部

 ジパング倶楽部は、高齢者の旅行需要の創出という観点から国鉄が日本観光旅館連盟と共同で設立し、1985年5月30日から会員を募集、7月1日から会員向け割引切符の販売を始めた。1981年秋発売の「フルムーンパス」に次ぐシルバーマーケット開発で、平日の需要喚起策でもあった。ちなみにこの時期は、国鉄再建監理委員会の最終答申が出され、分割民営化が既定路線になったころでもある。

 当初は男女とも「高齢者」と呼ばれる満65歳以上が入会の条件であったが、ジパング倶楽部の特典を利用して夫婦で旅行をしたいとの要望が多く、1986年6月1日に会則を改定し、夫婦の年齢差を考慮して現行のように女性は60歳以上となった。

 国鉄分割民営化後の1988年9月1日にジパング倶楽部事務局は旅客6社ごとに分かれ各旅客会社に事務局が置かれた。このときから名称は「JR北海道ジパング倶楽部」「JR東日本ジパング倶楽部」などと、旅客会社の名前がついた。ただし、規約に関しては統一され、本州でも九州でも同じように利用できる。

 分割と同時に会員は地元のJR旅客会社に属するジパング倶楽部事務局に振り分けられた。現在では地元のジパング倶楽部に入会するのがポピュラーであるが、旅行先の駅でパンフレットを手に入れた場合、居住エリア外のジパング倶楽部事務局あての入会申込書に記入してしまう場合もありうる。その場合は、申込書が届いた事務局から地元のジパング倶楽部所属にするかどうか連絡が入り、地元のジパング倶楽部にするならば書類は回送される。例外的に申込書を出した事務局のままでよいという人もいる。

 初年度の1年間で約10万人が入会、成長した現在では全国の会員数は120万人を超え、このうち約半数の約63万人がJR東日本ジパング倶楽部に所属している。120万人という数字は、65歳以上のうち18人に1人は加盟していることになる。

 会員の内訳は60〜70歳代が中心で、80歳代はガクンと少なくなる。男女別では男性4に対して女性は6。これは高齢者の人口が男性より女性のほうが多いことも影響しているのだろうが、総じて女性のほうが活動的・旅行好きとの証左でもある。現に、旅行業界では女性に好まれる商品を企画し、そこからファミリー層へつなげていこうと日々苦心をしている。奥さんが熱心に下調べをして、夫はあとからついていくパターンが見えてくる。

 切符を割引購入するには会員手帳にとじ込まれている「JR乗車券購入証」を使う。1年につき20回分あり、3回目までは2割引、以後は3割引になる。JR東日本ジパング事務局の調べでは、1年のうち一度も使わなかった会員は1%未満、逆に20枚すべて使った人は1%程度で、最も多いのは3枚、平均すれば5枚程度の利用と判明した。2〜4ヵ月に1回の割合で旅行を楽しむ人が多いようだ。割引きが適用されるのは、新幹線を含むJR線を営業キロの通算で201km以上利用する場合であるが、必ずしも利用する鉄道線が連続していなくてもよく、例えば東京から軽井沢へ新幹線(営業キロは146.8km)で行き、軽井沢からバスで草津へ、長野原草津口から「新特急草津」で上野へ戻る行程(同168.4km)ならば、一つの連続した旅行と見なされ、1枚の乗車券購入証で発券される。

 こうした旅行をサポートするのが季節ごとの旅行情報を掲載する会報『ジパング倶楽部』(設立当初は『ジパング』)で、設立当初から月刊ペースで発行されている。

事務局独自の旅行企画を提案

 以上はジパング倶楽部に共通する概要であるが、国鉄改革から13年を経て各社間にシルバーマーケットに対する温度差が出てきたようだ。JR東日本とJR西日本はとくに力を入れており、全国共通の会報のほかJR東日本では『ジパング旅仲間』、JR西日本では『ジパング旅の雫』と題するツアー情報誌を作成している。ほかの4社、特に三島会社は体力的なこともあり積極的な展開はしていないように見受けられる。

 しかし、高齢者層の旅行需要は年々高まってきており、JR東日本ジパング倶楽部事務局では2000年度、1ヵ月に30〜50コース、70〜80本のツアーを企画し、『ジパング旅仲間』に掲載したところ、6割が催行になったという。これは旅行業界では驚異的な数字で、一般的には3割催行できればまずまずとされている。

 添乗員同行・個人ツアーとも、最近の高齢者旅行は、「健康・知的好奇心・交流」をキーワードとするものが好まれるようだ。四国・西国・坂東などの札所をめぐる巡礼の旅、歴史散策、自然の中をウォーキングというのが代表格で、ツアーの中身も通常1泊2日で進むところを2泊3日にするなど、全体にゆったりとした行程を組む。食べ放題などのグルメツアーは、日本が豊かでなかった戦後から昭和30年代に青春期を送った世代であることと、年齢的に多くは食べられないことから、あまり人気がない。

 こうしたツアーを通じて仲間が増え、同好の士が集まり旅行に出かけることもあるという。切符が安くなるだけでない、ジパング倶楽部のもう一つの役目が実現しつつある。

(2001年5月号)


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:56:41 JST