セラムビジョン †駅や空港に設置される案内盤など、公共の場で人々に情報を伝える新しい手段として、日本ガイシ(株)(NGK)は圧電ディスプレイ「セラムボード/セラムビジョン」を開発した。これは既存のディスプレイ(CRT・LCD・LEDなど)とは全く異なる原理で文字・画像を表示するものである。 「セラム」の語源、セラミックスは本来は陶磁器という意味だったが、今では成形・焼成などで得られる非金属無機材料の全般をさす。耐熱性・耐食性・絶縁性にすぐれ半導電性をもつものもある。NGKの圧電ディスプレイは(1)導光板、(2)画素、(3)画素駆動源(圧電マイクロセラミックスアクチュエータ)の3層構造で、(3)の層に特殊なセラミックスが使われている。この装置では導光板側が表示面となり、透明な薄い層に光が入力され、そこへ裏から赤・緑・青の画素が接触するのを人々が見て、文字や画像が認識されるようになっている。 画素が隔離しているとき(画素OFF)は、光は導光板の中で全反射しながら損失なく伝達される。が、信号を受けると、アクチュエータが変位し、画素が導光板に接触する。すると導光板の中の光が画素に当たって散乱し、外に向かって高角度に放出される。(画素ON) これが表示の原理である。 このディスプレイは小型パネルを構成単位としており、それを組み合わせて必要なサイズの画面を作るようになっている。小型パネルは1辺の長さ9cm、厚さ1mmの正方形の板で、パネルの組合せによって画面が構成される。横長の小型のものをセラムボード、大型のものをセラムビジョンという。 セラムビジョンには、既存の表示装置にはない優れた特性がある。まず第一に、非常に見やすい。画素ピッチが2.8mmと細かい(LEDの3倍)ため、大画面でもくっきりした精細な画像を表示できる。また、光の散乱によって表示するので、視野角特性がCRTよりも広く、真横や真下からでもムラなく美しく見ることができる。画像の再現能力としては、1,670万色の表示能力があり、自然画像を忠実に再現できる。動画の応答時間はLCDに対して1/10かそれ以下であり、高速の動きも自然に感じられるようになっている。 第二に、多様なユーザーの使用条件にあわせやすい。分割パネル構造なので、設置個所の必要な面だけに構成でき、中抜きデザインや、動画領域・固定画面領域の混在配置も可能である。分割パネルは隙間なく敷き詰められ、画像に途切れ目ができることはない。また、パネル自体の厚さは1mm以下という超薄型で、例えば80インチ画面の場合、導光板を含めても厚さはわずか15cmにすぎない。さらに、設置場所の明るさに応じて光量も自由に設定でき、エネルギーの節約に効果がある。 このようにすぐれた特性によって、セラムビジョンは公共施設から企業・官公庁までさまざまな用途への導入が考えられている。駅の発着案内盤も、既存方式の機能のほか、例えば列車の実写の画像を取り込むことにより、いっそう直接的で正確な情報の伝達が可能になる。 セラムビジョンは今年の夏〜秋ごろ、商品としてリリースされる予定である。また名古屋の地下鉄桜通線名古屋駅(東行ホーム)の壁面には、この商品の試作品がテストをかねて設置されている。 (2002年5月号) |