ロープウェイにも技術革新 箱根のフニテル †年間を通じて国内外から大勢の観光客が訪れる箱根に、昨年6月、新しいスタイルのロープウェイが登場した。「フニテル」という聞き慣れない名前のこのロープウェイ、果たして従来のものとどこが違うのか。 箱根ロープウェイは、小田原から箱根登山鉄道と箱根ケーブルカーを乗り継いで1時間のところにある早雲山を起点に、全長4,035m、途中3駅を経由して芦ノ湖畔の桃源台を結ぶ。1959年(昭34)に早雲山〜大涌谷間の第1期線、翌1960年に大涌谷〜桃源台間の第2期線が開業して以来、40年あまりで約5,000万人を運んできた。 ロープウェイは、ゴンドラ(搬器)を支える支索と搬器を移動させるための曳索を用いるが、2つの搬器に曳索を固定して交互に上り下りさせる交走式と、一方向に回転する曳索を搬器がつかんだり離したりすることで走行・停止する循環式の二つの方式がある。箱根ロープウェイでは、支索と2本の曳索を使った複線自動循環式で運転していた。距離が長く、支索・曳索は途中で分割され、その接続点の構内で搬器がケーブルを乗り換える仕組である。 名立たる箱根のこと、時代が下るにつれ秋の紅葉シーズンなどには1〜2時間の乗車待ち時間が発生するなど、輸送力不足が目立ち始めた。また、山岳気象の影響による強風にともなう運休が年間で約30日におよぶこともあった。 それらの打開策として新線増設などの案も含めて検討した結果、架け替えにより輸送力の増強を図ることとなった。直通運転だった第1・2期線の運転系統を分離して、今回は第1期線の早雲山〜大涌谷間1,472m、高低差281mの区間を架け替えた。総工費約24億円、2001年12月から半年間、営業を休止して工事が行われた。 風に強く安定した運行が可能なようにと選ばれたのがフニテルで、複式単線(Double Loop Mono-cable:DLMと略す)自動循環式と称する。この方式は、支索と曳索の機能を兼ねた支曳索を2本用い、搬器がこれをつかんで進む。本来の用語としては、2本の支曳索の間隔を搬器の幅より広くとり、中間に搬器を置く方式をフニテルと呼び、屋根上の懸垂機を短くして搬器の全高を低く抑え、風圧に対する安定性が得られることが特徴である。フランス語のFuniculaire(鋼索鉄道)とTeleferique(架空索道)の造語が、その語源であるといわれる。 近年、オーストリアやスイスのアルプス地方では同方式が実績を上げており、箱根の気象条件にも合致するとして採用された。1998年に徳島の箸蔵山ロープウェイが日本で最初にDLMフニテルを取り入れたが、こちらは交走式で、自動循環式としては箱根ロープウェイが日本初ということになる。 新方式により、従来は風速20mまでだった運行条件が風速30mまで可能になり、速度は秒速2〜2.5mが秒速3〜5mと約2倍になったことで、1時間あたりの輸送力は975人から1,440人へと5割近く増強された。 静かで快適な空中散歩 †新装フニテルの第1期線に乗る。早雲山駅の1階にある直径4.4mの緊張滑車3枚がケーブルを巻き取り、また送り出す。支曳索は直径48mm、長さ6,000mにおよぶ1本のケーブルである。ホームでは、従来型より大型化された搬器がガイドレールをゴムタイヤのローラーに導かれ、乗車位置へと向かう。搬器はスイス製で赤、青、白の3色があり、スキーリフトのような外観。 搬器は最も速い秒速5m運転で45秒、最も遅い秒速3m運転で75秒の間隔がとられており、すべて自動運転されている。乗降扉はリンクにより自動的に開閉し、係員は乗降の遅れがないかを監視するのみ。扉が閉まるとガイドレールを進んで待機し、勢いをつけて前へ飛び出すと同時に床下から前方へ延びる支曳索をつかんで前へ進む。 丸みのある形の搬器は2ヵ所の乗降口を持ち、天井から床面まで側面のほとんどが透明なガラスで覆われているため、360度の視界が広がる。立客4人を含めても13人だった定員は、全員着席の18人へと増えた。ホームを離れるとグーンと加速がつき、みるみる斜面を登ってゆく。支柱の滑車を通過するさいの衝撃や支柱間での揺れもほとんどなく、走行音も気にならない。 技術革新と規制緩和で実現したフニテル †大涌谷は箱根でも有数の観光スポットであり、以前から中間駅として乗客の約8割が途中下車していたが、現在はここで乗換えとなる。しかし、搬器の進路を迂回することなく、平面移動で乗り換えられる。もともと第1期線と第2期線の動力装置は大涌谷で別々に設けられており、運転系統の分離に大きな問題はなかった。500kWのモーターが直径4.4mの原動滑車2枚を回転させケーブルを巻き上げている。 大涌谷から先、桃源台への2,533mは、途中、姥子を経由して高低差303mを秒速2.5mでゆったりと進む。こちらの架け替えは2007年の完成予定であるが、今後、利用者の反応を見て運行形態を決めるとのこと。 フニテルは、コンピュータ制御により2本の支曳索を同調させる技術が確立したことで実用化された。あわせて、1997年に索道の構造に関する規則が見直されており、この規制緩和も導入をあと押ししたようだ。 (2003年3月号: ロープウェイにも技術革新 箱根の山を越えるフニテル)
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