ヘッドマーク盗難事件

 近年、鉄道部品等の盗難が頻発しており各鉄道会社を悩ませている。おもなものはヘッドマークや看板類であるが、これらの部品は一般の人には価値を見出しがたいものであるため、鉄道に知識と関心をもつ者、あるいは考えたくはないが一部の悪質なレールファンの仕業であることは、ほぼ間違いない。

 これらの盗品は、以前は個人が隠し持つケースが中心だったが、最近はレールファン向けの鉄道部品販売店やインターネット上でオークションにかけられる場合も多く、盗品を売却することで金銭の利益を得ることを目的とするケースがあると想像される。このことは、一度に大量に盗み出すケースが増えていることからも裏付けられるのではないかとの見方もされている。

 以前、山陰地区の181系特急気動車の正規のイラスト入りヘッドマークが大量に盗まれ、その後は文字だけのもので代用されてしまった事件があった。最近も、九州内でブルートレインのヘッドマークが盗難にあい、予備品も底をついたため、列車のシンボルを掲げないで走る無残な姿が目撃されている。JR九州では以前の苦い経験からヘッドマークを機関車にボルト止めしたうえ、チェーンによるロックをかけて防止を図っていたが、今回はそれが断ち切られており、手口がかなり凶悪となっている。

 他のJR各社でも、ボンネット形特急電車の重いヘッドマークが一度に複数盗まれるなど、とても単独犯では不可能な事例が見られるなど、多かれ少なかれ同様の事件が発生しており、各社とも警察に被害届を出している。

 また、私鉄の名古屋鉄道でも、看板類の盗難がここ1〜2年で急増しており、ホームに置いてあった行先板が幾十枚の単位で盗まれるケースが複数の駅で発生した。やはり凶悪なケースとして、パノラマカーに取り付けられた電動幕が機械ごと盗まれる事例も発生している。  昨年、警察の張込み捜査により男性1人が逮捕され、家宅捜査をしたところ100点もの看板類が押収されたという事例もある。しかし、逮捕者が出て新聞でも扱われているのに、犯行は繰り返されているという。

 名鉄の例では、相次ぐ盗難の防止策として、夜間は看板類をホームに置かず、駅舎内にしまう措置をとっているが、行先標類は日々使うものであり、車両に固定することもむずかしいことと、夜間、駅構内等での留置車両もあるので決定的な対策は見出せていない。JR西日本では、車内のプレート類はビス止めをやめるなど、盗難防止に資する対策をとっている。

 一方、最近は鉄道会社自身が不要になった看板類や部品類をイベント時に販売する例が増えているが、それらに出品するさいは何らかの処置を行なって、市中に出回ったさいにも盗品と区別する対策をとっているところもある。

 いずれにせよ、鉄道部品を現場から持ち去ることは歴然とした犯罪であり、たんに看板を盗んだだけでも窃盗罪に該当し、罰金刑ではすまず10年以下の懲役が課せられる。また、標識灯類などを盗み、列車の運行ができなくなった場合は、威力業務妨害罪や往来危険罪、また鉄道営業法にも罰則規定があり、状況に応じて罪は重くなる。

(2001年10月号: 防ぎきれないヘッドマーク盗難事件


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:56:46 JST