ムーンライト †本年夏の臨時列車として、初めて「ムーンライト東京」が誕生した。仙台〜東京間を東北本線・武蔵野線・京葉線経由で結ぶ夜行快速列車で、青森から仙台電車区に転属した583系を用いて、夏休み期間中に延べ4往復が設定された。列車設定の主たる目的は、京葉線沿線の東京ディズニーリゾートへの観光客輸送である。全車指定席であるが、普通列車指定席料金を加算すれば「青春18きっぷ」でも乗車でき、夜行を利用することで現地の滞在時間を朝から晩までフルに使えるメリットがある。 このように廉価を求める反面、ハードスケジュールはいとわないという需要は、若年層を中心に根強くある。かつてのように夜行列車が一般的という時代ではないが、夜行バスの需要も堅調を保っている。こうした需要に応える列車として、「ムーンライト」シリーズがある。今夏は「東京」も含めて9つの愛称で運転されるが、ただし、これらは「ムーンライト」の冠を意図的に統一しているわけでもない。 愛称のルーツは、現在の「ムーンライトえちご」の前身である、「ムーンライト」である。国鉄時代の1986年夏、新宿〜新潟間に14系客車による臨時列車として誕生した。当時、関越自動車道の夜行高速バスに対抗するものとして話題となったが、以前の夜行急行「佐渡」から新幹線に転嫁しきれずにいた需要の吸収や、「新幹線の最終を遅く」との要望も汲んでいた。乗車券も最初は専用の企画切符方式で発売された。しかし、翌年9月からレベルアップのため急行形165系電車のアコモデーション改善車に生まれ変わり、切符も一般の指定券方式に変更、順調な定着を見せて1988年3月に定期運行化されている。 一方、東海道本線には以前から東京〜大垣間に夜行普通列車(途中、通過運転)が運転され、「大垣夜行」として幅広い客層から親しまれていたが、とくに格安の料金で乗車できるグリーン車に人気があった。1996年3月に165系急行形電車から新製のJR東海373系特急形電車に置き換えられることになり、このさい、一般的な通勤利用と分離するため全車指定席となり(下り小田原から、上りは熱海から一部自由席)、快速「ムーンライトながら」の愛称が付けられた。これを機に新宿〜新潟間の列車も「ムーンライトえちご」に改称され、「ムーンライト」が夜行快速の愛称として定着するきっかけとなった。 以上は毎日運転の定期列車であるが、西日本方面でも多客期の臨時列車として運転されるグループがある。最初の誕生は1989年夏の京都〜高知間「ムーンライト高知」と京都〜広島間の「ムーンライト山陽」で、岡山まで併結運転、1995年のゴールデンウイークから京都〜松山間「ムーンライト松山」が加わった。1990年夏には京都〜博多間の「ムーンライト九州」、1996年夏から岡山経由で山陰方面へ「ムーンライト八重垣」が誕生した。これらは、客室設備を改良した12系(四国方面、JR四国車)と14系(その他、JR西日本車)客車列車である。 また、2002年12月ダイヤ改正で中央東線の夜行急行「アルプス」が廃止されたことから、これを受け継ぐ臨時快速として新宿〜松本方面間に「ムーンライト信州」が運転を開始した。ほぼ通年にわたるが週末中心の運転で、183系特急形電車が使用される。前述の「ムーンライトえちご」も本年4月から485系に置き換わった。 (2003年9月号)
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