冬に活躍するモータカーロータリー

 近年、温暖化の影響か全般に降雪量が少なくなってきたと言われるが、北海道や東北ではまだまだ数mも積もることは珍しくない。雪国の鉄道では、降雪・積雪時にも通常のダイヤを確保するため、シーズンが近づくと、DE15形など除雪機関車の整備を行なうなど準備を整える。雨や台風の場合は、列車が止まっても天候が回復すれば復旧は比較的早いが、雪はのちのちまで多大な影響を残すことが多い。

 ところで、大型の除雪機関車が白一色の中をかき分けて進むシーンはなかなかの迫力で、一度でも目にした人に強烈な印象を与える。しかし、こうした除雪機関車群に交じって最近では「モータカーロータリー」と呼ばれる小型の除雪機械群の配備数が増えている。導入の経緯やメリットなど、雪対策の一端を見るべく、雪の多い地域をカバーするJR東日本沼田保線区を訪ねた。

 沼田は、上越線が三国山脈にさしかかる手前、渋川から4駅先に位置する。国鉄時代、高崎鉄道管理局と新潟鉄道管理局の境界は、上牧〜水上間にあたる大宮起点131.12km地点にあった。水上は新潟局に所属し、雪が降ると、長岡運転所からDE15形ラッセル式機関車やDD53形ロータリー式機関車などが山を越えてやってきた。豪雪地帯を走る上越線ではあるが、除雪機関車が必要なほど雪が積もるのは水上より北で、どんな大雪も水上から500m南へ下ることはないという。

 これを裏付けるように、取材当日の軌道敷の雪は、後閑〜上牧間で消えていた。このため高崎鉄道管理局には除雪機関車の必要はなかった。JR発足後は、高崎局は高崎支社に、新潟局は新潟支社に変わり、支社間の境界は県境に準じて土合〜土樽間の大宮起点146.43kmに移された。これは上り線が清水トンネルの出口(水上側)、下り線では新清水トンネルの中にあたる。このため、高崎側でも積雪区間を抱えることになったのである。しかし、水上から支社境までは12.63kmの短距離で雪の量も新潟側に比べればはるかに少なく、除雪機関車を配置するほどではない。このような条件にピッタリあうのがモータカーロータリーであった。除雪区間が長い新潟支社には、そのままDE15形やDD53形が残っている。

MCR−600形

 このモーターカーロータリーの標準タイプとでも呼べるものが、MCR-600形である。1992年に新潟鉄工所で製作され、全長約15m、一方にラッセルヘッド、反対側にロータリーヘッドを取り付ける。特急気動車に引けを取らない560PSの強馬力エンジン1台を搭載している。

 ラッセルヘッドの翼は最大4.5mに開き、先端上部にはショベルカーのような腕にブルドーザーのブレードを付けた「段切装置」がある。腕を左右に振り、除雪により線路脇にせり出した雪の壁が崩れる前にかき落とす。一方、ロータリー部は最大5.2mの幅に開く掻き寄せ翼で雪を集め、回転する爪(オーガ)で雪を細かく砕き掻き上げて線路外へ飛ばしていく。レール間の除雪に対しては、レール面から30mm下、軌道中心を挟み左右800mmまで可能。この数値は車輪のフランジに当たらないことと、脱線を防ぐ目的から定められている。1時間あたり最大除雪量は16,600立方m。これは平均的な12フィートコンテナにして920個強に相当する。

 この時期、除雪用モータカーは保線区事務所のある上越線沼田ではなく、水上と土合に駐留している。水上を拠点とするのはMCR-600形で、新潟方にロータリーヘッド、高崎方にはラッセルヘッドがついている。土合のものは旧型のMC4AR形で、ロータリー・ラッセルの各ヘッドがMCR-600とは逆方向に取り付けられている。一般に除雪車両としてすぐに思い浮かぶラッセル式機関車は、沼田保線区にはない。おもに水上より北で除雪作業を行なうとなれば、高崎方に向いたラッセルヘッドを使う場面はないのではと疑問をもつが、駅構内の除雪に用いるとのことであった。

 なおJR東日本では、MCR-600形を秋田支社の横手・大曲・弘前・秋田工務区、盛岡支社の盛岡第2保線区・北上施設区、仙台支社の米沢保線区、新庄・会津若松施設区、新潟支社の越後湯沢・村上・直江津保線区と阿賀野ライン営業所、長野支社の信濃大町工務区にも配置している。

除雪作業の実際

 通常作業は責任者1人、オペレーター2人の計3人で行なうが、夜間など必要に応じて見張り員を1人つける。進行方向に向かって左側に運転席があるのは通常の車両と同じ。除雪ヘッドを操作するコクピットは右側にある。また、ロータリー方のコクピットには、オーガの状態を監視するモニターがある。

 作業の手順を見てみよう。取材当日は下り線の除雪を午前に行なったので、午後は上り線での作業となった。駐留している側線から本線へ引き出すために、無線で駅に進路確保の要請をする。通常、基本ダイヤの合間をぬって出動するのであるが、と言っても「動きます」「はいどうぞ」ではなく、出動のタイミングは「何時何分にポイント切換え」と細かく打ち合せる。そして、構内の中線に入り、ポイントが切り換わるのを待つ。この間もオーガは回転しているが、掻き込む雪がないので空回りに近い。

 ポイントが切り換えられ、上り線を下り方の湯檜曽へ向けて走り出した。日中の約3時間、水上〜湯檜曽間の上り線には通過列車がないが、逆走するとは不思議な感覚だ。モータカーは絶縁した車輪を履いているため、信号に影響されない。駅との念入りな打合せはこの理由による。列車の運転は信号に従って行なわれるが、信号と無関係に走るモータカーはポイントの開通状況をよく見て進まなければならない。また、踏切に近づいても警報機は鳴らず、踏切では道路を走る自動車が優先される。

 線路脇に積もった雪、ラッセルによって積み上げられた雪は掻き込み翼で寄せ集められ、レール間に残る雪とともにオーガにのみ込まれる。そして枕木方向と並行に取り付けられた投雪スクリューにより、線路外へ飛ばされる。オーガ1回転につき投雪スクリューは3回転する。投雪距離はスクリューの回転速度によっても異なるが、平均25〜40m、周囲に障害物がない場所では50mも飛ばすことがある。

 凍った雪が投雪筒を通過する音が、バリバリバリと大きく響く。掻き寄せ翼やオーガ・投雪筒は、オペレーターが手元のレバーでたくみに操作する。踏切や橋梁では構造物にぶつからないよう翼を閉じ気味にしオーガは若干上げる。沿線の民家や施設などに向けては投雪できないので、投雪筒の口の向きを右へ左へ、あるいはスクリューの回転を速くしたり遅くしたりといった調節をする。要領よく雪を落としてゆくには熟練したテクニックが必要だ。

 沼田保線区においてMCR-600を扱える社員は1/3くらいだという。同乗の責任者は、モータカーの速度と投雪場所に対する指示を的確に出していく。この日は積雪量が少なく運転速度は約15km/hであった。これがトップシーズンになると10km/h以下になり、夜間の出動もあるそうだ。

 MCR-600は湯檜曽の先、第1湯檜曽トンネルの坑口まで走って、同じ線路を通って水上へ戻った。第1湯檜曽トンネルを境に北は土合のMC4ARが担当する。湯檜曽のホーム上家で、雪降ろしに余念がない社員数名の姿を見かけた。

小回りが利くモータカー

 基本的に、モータカーも除雪機関車も役目は同じだ。しかし除雪機関車は車両であるが、モータカーは「機械」として扱われ、車両としての籍はない。除雪機関車の場合は、雪が積もってきたからさあ出動という具合にはいかず、輸送指令と打ち合わせ、除雪作業を想定して事前に設定されているダイヤ、「影スジ」にもとづき列車として運転されている。「除雪列車」、正式には「排雪列車」と称される所以である。また、「特雪」と呼ばれるロータリー式除雪機関車による場合は、駅構内の作業が禁じられている。

 対してモータカーは、保線区長および主任の判断により駅に掛け合って、営業列車に支障がないことを確かめて出動できる。言うなれば、ダイヤの合間をぬう「ゲリラ」的な運転だ。ゆえに1時間の作業と決めれば必ず1時間で終了しなければならず、保線区では雪が大量に降り積もる前の、早め早めの作業を旨とする。駅構内の除雪ができる点も大きい。もちろん、モータカーの性能で太刀打ちできないほどの豪雪になれば、除雪機関車の応援を要請することになる。しかし、現役の除雪機関車は各形式とも車齢が高く、今後、老朽廃車が進めば、小回りが利いて使い勝手がよいモータカーロータリーが増えることも想定されるようだ。

(2001年4月号)


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:56:48 JST