鉄道とユニバーサルデザイン

 近年、バリアフリーに対する意識が大いに高まった。さらにユニバーサルデザインという言葉も次第に普及しつつある。1998年と2000年にアメリカで開催された「国際ユニバーサルデザイン会議」が、今年は11月30日〜12月4日、横浜市で開催される。日本が急速に世界一の高齢化先進国となるというのが開催国となる理由で、老若男女すべてが快適に過ごせることを目標に、議論を深めようとする趣旨である。

 「ユニバーサルデザイン」の概念は、アメリカ、ノースカロライナ州立大学の故ロナルド・メイス氏が1980年代から定義したものである。先行して存在したバリアフリーの概念は、社会生活の中に存在する多くの障壁をできるだけ取り除き、高齢者や障害者が社会参加しやすいように施設や環境を改善しようとする福祉的考えである。

 一方、ユニバーサルデザインは、ふだんは不自由なく生活している人でも一時的な障害者になることはあり、知らない土地を移動するような場合も制約を受けることなどから、「だれもが使いやすい」ことを大前提に置き、計画・設計段階からバリアを作らないことをめざす考えである。

 日本でも、1999年度から通産省(当時)が学識経験者や消費者、産業界などが参加したユニバーサルデザイン懇談会をもち、ユニバーサルデザインの方向性として「6つの配慮事項の提言」などをとりまとめてきた。ここでは配慮すべきこととして、

(1) 情報の識別が容易であること、
(2) 理解が容易であること、
(3) 使用が容易で身体的負担が小さいこと、
(4) 安全であること、
(5) 汎用性があること、
(6) 使用が楽しいこと ―が列挙された。

 懇談会は現在の経済産業省にも引き継がれ、製品の販売や普及の方向性について検討を加えている。また、有志の企業・団体・機関・個人が集まり、「ユニバーサルデザインコンソーシアム」なども組織されているなど、活動は広がっている。

 ピクトグラム(絵文字)による案内は国際的に理解しやすいし、広いトイレは車椅子利用者だけでなく子供連れも労苦なく、だれもが公平に利用できる。

 鉄道はもとより公共輸送を担うため、ユニバーサルデザインを積極的に取り入れてゆくべき存在にある。日本で代表例にあげられる阪急電鉄伊丹駅は阪神大震災後の復旧工事で新築され、駅前広場から駅ビル内を通って高架ホームまで短距離で、かつ車椅子も介助なく到達できるよう動線が計画された。国鉄跡地に新しい街が作られたさいたま新都心駅は、周辺とあわせて視覚に優れた黄色いサインを追ってゆけば目的が達せられる。両者とも音声案内やセンサーをつけて杖を誘導する試みもされている。

 また、超低床路面電車も代表例で、とくに海外の事例がリードしているのは、パーク&ライドやトランジットモールなど、システム全体としてとらえている点である。

 一方、「だれもが使える」ことをめざすには現実に非常にむずかしいハードルも存在する。例えば、外国人旅行者の不満のもとである外国語表記の不足も、それを多言語にするほど案内全体が煩雑になって見づらくなるなど二律背反の恐れは多い。また、こうした概念を誤解すると、古くても価値あるものを軽視しかねない。古いものが生まれた時代の価値や背景を理解して改善しつつ使い、いたずらにスクラップ&ビルトに走らないことも大切である。まず、目標を掲げることが大事という見方もできる。

 さらに重要なことは、社会基盤としての仕組や施設の整備と並行して、実際に不自由を感じる人に対してだれもが自然な形でサポートできる体制、環境を作ってゆくことではないだろうか。

(2002年12月号)

 


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:56:49 JST