昼間時間帯のリフレッシュ工事

 2000年10・11月、JR東日本の京浜東北線・山手線の田端−東京−田町間11.7kmにおいて、施設・設備のリフレッシュ工事が日中時間帯に実施された。レールは毎日の列車の通過で敷設当時の状態から微妙にずれが生じてくる。放置すると乗り心地が悪くなるだけでなく、故障の遠因にもなりかねない。最近では作業をスピーディに行なうため、大型の作業車を導入している。

 通常、線路保守は営業列車の運行を極力妨げないため、終電から始発までの間合を使って行なわれるが、JR東日本では集中した機械化施工により効率的な作業を可能とし、また安全性を向上させるため、日中時間帯にも作業を行なっている。そのさい地方の線区ではバス代行輸送を確保し、一定時間、列車を運休するが、田町−東京−田端間は京浜東北線と山手線が並行する方向別複々線となっているため、京浜東北線線路の工事中は山手線を、山手線線路の工事では京浜東北線の線路上をそれぞれの電車が共用し、209系・205系が交互に走る措置をとる。また、工事実施日は京浜東北線の快速運転は休止となった。

 工事日程は、京浜東北線が10月17〜19日と11月7〜9日、山手線が10月24〜26日と11月14〜16日の4回。投入されたおもな大型保線機械は次のとおり。

 マルチプルタイタンパー…巨大なツメでレールを持ち上げ、枕木下の薄くなった道床砕石(バラスト)を入れ直し、レールの凹凸をまっすぐにする。  レール削正車…車輪との摩擦によって凹凸が生じたレール表面を削る。  軌陸車…鉄車輪を取り付け線路上を自走できるようにした自動車。今回は架線の検査用に垂直昇降する作業台をつけたものが用いられた。

 このほか、線路とホームの隙間・高さを検測する「ホームマスター」が用いられた。これは、事務机に車輪をつけたようなスタイルで、パソコンが搭載されており、検測者が自ら押していく。なお、今回の工事は本誌2000年10月号で紹介した省力化軌道への更新ではなく、現在ある軌道のメンテナンス工事である。

数ヵ月前から軌道のデータを分析

 工事は、四半期に一度のペースで行なわれる軌道検測車(マヤ車)の走行で得たデータをもとに実施される。工事日程にあわせて軌道検測車を走らせる場当たり的な作業では、効率的にもうまくない。作業車・作業員の配置も無駄のないよう念入りに計画を立てる。次に、ポスターや駅の放送を通じて工事の実施日を周知させる。また、当該区間の場合、保線区の担当境界線が御徒町−秋葉原間にあり、田端−秋葉原間は上野保線区、御徒町−田町間は新橋保線区のエリアに分かれているため、作業に関する指示を二手に伝達する必要がある。

 10・11月の作業行程を見てみると、ポスター等で報じられた工事区間の運転休止時間は10時30分〜15時30分、き電停止時間は11時〜15時20分であるが、作業車の搬入・撤収などの時間を考慮しなければならないので、実際の作業時間は11〜15時の約4時間と想定できる。この4時間で狂いの生じた線路を真っ直ぐにし、バラストを再びつき固め、架線の点検をし、交換するレール等があれば取り替える。東京圏の線路はロングレールが多く、レール交換にさいしては現場での溶接作業も加わるから大変だ。さらにホーム下に落ちているゴミや吸殻を除去する作業が加わる。

 工事の進み具合は平均1時間420m、1日あたり1,500m程度である。京浜東北線・山手線各6日の工事ということは、単純に計算すると9kmとなり、田端−田町間11.7kmより短くなるが、軌道検測車のデータに基づいて実施されるため、異状のないところはさわらなくてよいし、弱っている部分にマルタイなどを集中的に投入する。作業員は1日平均250人である。これでもすべて人力で行なっていたころに比べれば、ずいぶん早くなった。

夜間より昼間帯が有利な保線作業

 では、なぜ貴重な営業時間をつぶして昼間に保線作業を行なうのだろうか。これには、大型機械を集中投入するには夜間帯より昼間帯が効率的であるということと、作業の安全性、それに騒音問題が関わっている。保線作業はすなわち土木作業で、マルタイなどで機械化されたとはいえ危険もつきまとう。また、同程度の作業を夜間帯に実施するより約15〜20%のコストダウンになり、良好な仕上がりが見込めるので、メリットは数多い。

 また、JR東日本が1990年に掲げた、21世紀への経営構想「FUTURE21」にも関係している。「FUTURE21」には、いわゆる3K(きつい、汚い、危険)作業を改善し、業務の機械化・システム化を進め、働きがいのある職場をつくるという趣旨が盛り込まれている。これに沿って、大型機械の導入による土木作業の軽減、工事時間の深夜帯から昼間帯へのシフトが図られているようだ。

運転本数はほとんど変わらず

 田端−田町間のリフレッシュ工事によって、営業に支障があったかといえば、実際には混乱はほとんどなかった。2〜3分おきに列車がやってくるラッシュ時間帯をはずし、比較的運転間隔が広い昼間帯に作業をすることで、山手線は通常の80%、京浜東北線ではほぼ100%の運転本数を確保できた。また、旅客からのクレーム等もほとんど出ていない。両線の電車の交互運転とはいえ、この間も足は確保されているわけだから、不便はあまり感じなかったのだろう。ポスター掲示など事前の広報、当日の車内放送、駅の案内が十分に徹底していたこともあるだろう。

 この区間のリフレッシュ工事は1年にそれぞれ1回ずつ、計2回実施するのが常であったが、今年は京浜東北線・山手線各2回の工事を実施した。JR東日本では、京浜東北線南浦和−鶴見間に、現行のATCよりも列車間隔を短縮できるデジタル方式ATCの導入を計画している。そこで、リフレッシュ工事の機会を活用してケーブル敷設等の工事を先行して実施、新ATC切替えの工期短縮を図り、2003年の使用開始をめざすこととしたためである。

(2001年1月号)


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:56:50 JST