甲種鉄道車両輸送 †甲種鉄道車両輸送とは、鉄道車両を鉄道を使って運送する場合の用語である。鉄道車両は自力走行などの手段でも輸送できるはずであるが、貨物として受託したものではそうはいかない。「貨物として託送される鉄道車両のうち、貨車に積載せずにそれ自体の車輪を使用して運送するもの」を、甲種鉄道車両と呼ぶのである。通常の貨車に積載できない大きさの貨物は特大貨物(以前はかつ大貨物と称した)として、運送手続きや取扱い、運賃等が定められており、鉄道車両もこれに含まれる。甲種に対し、以前は大物車などの貨車に積載して運送した例があり(路面電車などが該当)、この場合を乙種と称したが、その後、実態がなくなったため、JR貨物では社内規定等において「乙種鉄道車両輸送」の用語は使われていない。 甲種輸送で最も事例が多いのは、メーカーで新造した車両を鉄道会社の車両基地まで運ぶ新車輸送だが、じつはこの輸送には大きなハードルがある。鉄道会社の手に渡る前は、完成した車両であっても、営業車両として営業線上を走ることを鉄道事業法に則って国土交通大臣に認可された「車両」ではなく、車両の形をした製品にすぎない。本来の姿としては、貨車に積載して運ぶべきなのである。 しかし、実際に走行可能な装置を備えており、わざわざ車体と台車を分離して貨車に積むのは合理的ではない。そこで、一定の要件を満たすことを確認したうえで、その車輪により営業線路を走行させる(機関車等で牽引する)ことが特別に認められている。 輸送にさいして整えられるべき要件は、まず第一に軌間が同じであること。軌間の異なる私鉄や新幹線車両などを輸送するときは、JRの軌間用の仮台車を使用する。この仮台車は車両メーカーが必要に応じて備えている。 また、輸送される車両が輸送経路の建築限界に収まることが必要である。したがって、新幹線車両でも、新在直通用の車両であれば比較的容易に輸送可能だが、フル規格車両は相当にむずかしい。一時的に限界を変更する臨時措置を適用したり、途中駅では側線や中線を走行する措置などでクリアした事例もあり、東海道新幹線700系車両を在来線で輸送している事実もあるが、現在は中線が撤去されたり、もとから設備のない新駅や電車用にかさ上げしたホームが増えたため、この条件はより厳しくなった。 もう一つ重要な要件は、列車として運転するためには、全部の車軸に有効なブレーキがかかることが必要で、そのためには、編成全体に運転台から制御できる貫通ブレーキが機能しなくてはならない。輸送車両のブレーキシステムが異なる場合は、機関車側にブレーキ指令の変換装置等を積み込み、対処する。連結器が異なる場合も考えられるが、そのさいは特殊な中間連結器を介したり、輸送車両側の先頭の連結器を臨時に交換するなどの措置をとる。 こうした要件を整え、最後尾に後部標識を取り付ければ、1本の貨物列車として運転することができるようになる。その場合も、台車やブレーキシステム、連結器等が臨時のものであったりするため、運転速度は最高でも75km/hに押さえられる。 甲種輸送は、新製車両に限らず、例えば西武鉄道が自社の直通線路のない多摩川線車両の入出場にさいして定期的に委託したり、また、蒸気機関車の特別運転にさいし回送する場合も、JR貨物に貨物として委託されれば甲種輸送に該当する。一方、JR東日本が自社の新津車両製作所で新製した車両を自社の機関車で牽引し回送するケースが見られるが、これはJR貨物に託送しているわけではないから甲種輸送にはあたらず、自社の「配給列車」の扱いとなっている。 (2001年12月号) |