航空・鉄道事故調査委員会 †2001年10月1日、国土交通省に「航空・鉄道事故調査委員会」が発足した。同委員会は、鉄道事故およびインシデントの原因究明を専門に行なう、日本で初めての常設機関である。 従来、鉄道事故が起きたさいの調査は、警察の捜査が第一にあった。しかし、必ずしも警察官は鉄道の専門家ではなく、また捜査の目的は刑事責任を明らかにすることであり、事故原因そのものの究明にあるわけではない。また、その事故の教訓を以後に生かすという根本的な観点からの原因究明は鉄道事業者みずからの手に委ねられてきたが、その結果は、決して積極的に公開する意志をともなう類のものではないため、内部に閉ざされるケースもあった。 一方、航空事故については影響が甚大であるとして「航空事故調査委員会」が運輸省(当時)内に設けられており、法的な権限を持って現場への立入調査を行ない、場合によって証拠品の移動などを禁じ、その結果は広く公表して類似事故を防いでいた。 鉄道に関しては、のちに運輸省内に大きな事故のつど「事故調査検討会」が設置されることとなったが、法的な調査権限はないままだった。このようなことから、2000年3月に営団地下鉄中目黒駅付近で発生した列車脱線衝突事故のあと、迅速かつ継続的な調査には専属者が必要であること、調査ノウハウの蓄積には常設機関が必要であること、的確な調査の実施には法的権限が必要であるなどの課題が明確になった。このため、鉄道が高度化するなかでの事故は航空に劣らず甚大であるとして、航空事故調査委員会を改組して、「航空・鉄道事故調査委員会」が設置されたのである。 同調査委員会の特徴として、事故が発生したさいの原因究明調査とともに、重大インシデントについての原因究明調査を含んだ点があげられる。重大インシデントとは事故が発生するおそれがある事態(その時点ではまだ事故に結びついていない)のうち看過できないものとして国土交通省令で定める事態のことをさす。 例えば、閉塞の取扱いを完了しないうちに当該閉塞区間を運転する目的で列車が走行する事態、進路に支障があるにもかかわらず当該列車に進行を指示する信号が現示される事態、列車または車両が停車場間の本線を逸走する事態などはすべて規則で報告が規定されているが、このうちとくに異例と認められるものなどが調査対象になるのである。なお、航空事故においても、以前はインシデントは対象外だったが、新組織の発足と同時に調査対象に含むこととなっている。 調査委員会は、事故現場に立ち入り物件を検査すること、関係者に出頭を求めること、関係物件の所有者に対して物件の移動禁止を命ずることなどの権限ももつ。 調査の流れは、調査の開始(主管調査官の指名など)、事実調査、試験研究、解析、報告書案の作成、委員会審議、国土交通大臣への報告、そして報告書の公表となる。また、必要があると認めるときは、事故防止のために講ずるべき施策について国土交通大臣に勧告することができ、国土交通大臣や関係機関の長に対する建議を行なうことができる。報告はすべて公開されるため、関係者だけでなく、ホームページ等を通じて広く一般の人々も閲覧できる。 (2002年8月号) |