私有貨車

 全国規模の鉄道貨物輸送を引き受けるJR貨物において、両数的に圧倒的なのはコンテナ車で、これに次いでタンク車、そして紙輸送などに供されている有蓋車となる。かつては用途ごとの貨車が多種多様に存在したが、今ではコンテナの仕様のバラエティにとって変わった。このほか無蓋車、長物車、大物車などがあるが、両数としてはごく少数となった。

 ところで、ここに挙げたコンテナ車・有蓋車とタンク車では、所有区分が異なる。コンテナ車・有蓋車は「JR車」と呼ばれ、JR貨物が車両を保有し、荷主の要請に基づいて多様に車両を運用するものである。

 第二は「社車」と呼ばれるもので、JR貨物以外の鉄道事業者(私鉄)が保有する車両である。一定の性能基準を満たすことを条件にJR線乗入れの承認を与えた車両であるが、定期検査などは車両を保有する会社が行なう。国鉄時代は、関東近辺では東武鉄道や秩父鉄道の貨車がよく見られたが、現在はいずれも消滅した。

 そして第三が「私有貨車」である。所有者は鉄道事業を営むわけではない荷主であるが、車籍はJR貨物に置いており、原則として「走り装置」の保守点検はJR貨物が引き受け、JR車と同じ基準で行なう。

 私有貨車は、荷主にとって自社製品専用の貨車であり、他に使いまわす必要がないため、みずからの貨物の品質や形状に完全に合致させられるメリットがある。逆に鉄道事業者側が汎用性の高いものを用意しようとしても、困難なものである。私有貨車が用いられる代表的な品目は、石油やLPG、化学薬品など液体のほか、塩素ガスなどの気体、それからセメントなどが挙げられる。したがって貨車の種類としてはタンク車が非常に多く、2002年度末で約6,000両の私有貨車のうち、5,000両以上がタンク車で占められている。

 私有貨車では、これら製品の特殊な品質への対応だけでなく、例えば自社のプラントやトラックと共通化させた積み卸し設備を使用できるような貨車の形状を設計することができる。自社専用として、個々の社名を貨車に表示できるのもメリットで、それなりの宣伝効果を得ることもできる。

 また、私有貨車が用意されればJR貨物としては貨車を新製する必要はなくなるため、そのコスト減を反映して私有貨車による輸送については貨物運賃が15〜20%割り引かれる。さらに自社製品の限定輸送となるため復路はほとんど空荷となるが、これに対応して60kmまでは無賃で返送する特典が加えられている。

 なお、「走り装置」の保守点検はJR車と同じ基準でJR貨物が受け持つ原則だが、とくに軸数の多い大物車などは特殊な検査設備や専門知識、体制を要するため、所有者側に検査を委ねている。また、JR貨物として検査を担当するのは「走り装置」の部分であり、「上モノ」のタンク体などは準拠すべき法規がそれぞれ異なるため、それら基準に従って荷主側が検査をし、その結果をJR貨物に伝えることになっている。

 ところで、私有貨車は荷主が用意するものであるが、必ずしもほんらいの荷主の所有でないものも多い。リース車両がそれであり、JOT(日本石油輸送)やOT(日本オイルターミナル)などが石油元売り各社にレンタルしているのが代表例である。

(2003年10月号)

 


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:56:57 JST