首都圏の相当部分をカバー JR東日本の自営電力

 鉄道輸送、とくに電車の運行にとって電力は不可欠だが、日本最大の鉄道会社であるJR東日本の場合、現在、管内の全路線の約73%が電化されており、年間の電力使用量は62.7億kWhにのぼる。これは一般家庭が年間に使用する電力量の約180万世帯分に相当する膨大なものだ。

 あまり知られていないが、JR東日本は鉄道会社では唯一、大規模な自営の発電所をもち、全電力使用量の約6割、首都圏に限ってみれば約9割の電力を賄っている。川崎に火力発電所1ヵ所、新潟県の信濃川水系に3ヵ所の水力発電所があって、年間で37.9億kWhの電力を発電し、そのうち火力が55%、水力が45%を占める。

 この自営発電所は、第2次大戦前の国鉄時代に、首都圏の国電区間の電化にさいして安定的に電力を供給する目的で造られた。当時はまだ鉄道の需要を賄えるだけの供給力が電力会社になかったためだったが、大正時代に矢口、赤羽の2つの火力発電所が造られたあと、さらに近代化を図って、1930年(昭5)、川崎に火力発電所を建設し、運転を開始している。その後は、火力は川崎発電所に、水力は信濃川水系に発電施設を建設、増設して、現在に至っている。また、自営電力の一部はJR東海の東海道新幹線やJRシステムのMARSへも供給されている。

新方式へと生まれ変わる火力発電所

 川崎発電所は東京湾の埋立地‐扇島にある。東京ドームの1.4倍の敷地に、現在、4基の発電プラントが稼働しており、総出力は65万5,000kWにのぼる。発電所建設当初は3基の発電プラントが造られ、石炭を燃焼して高温の水蒸気を発生させ、その蒸気でタービンを回して発電する「汽力発電」と呼ばれる方式が採られた。約30年周期の発電設備の更新に合わせ、1958年(昭33)から順次改修工事を行なって燃料を重油へと転換し、1基あたりの発電量を2〜3倍以上に増やしてきた。また、1973年(昭48)には4号機が運転を始めている。しかし、重油を使用した汽力発電では排煙に含まれる大気汚染物質を取り除く環境対策設備をつける必要があり、その設備のために広いスペースが取られていた。

 鉄道輸送における電力需要の増加と周辺環境への配慮から、1981年(昭56)より、「複合サイクル発電方式」への取替えが始まった。エネルギー効率が良く、なおかつ環境にもやさしいガスタービンが採用され、燃料には灯油もしくは都市ガスが利用されている。複合サイクル発電の特徴は、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせること。ガスタービンは航空機のジェットエンジンと同じ構造で、燃焼ガスの勢いでタービンを回転させて発電機を回し、同時にタービンから排出される高温のガスで水を水蒸気化し、蒸気タービンを回して発電する。現在、1号機から3号機までが複合サイクル方式となっており、汽力発電が行なわれている4号機も、次の取替え時には同方式へと変わる予定だ。

 川崎発電所は首都圏にあるため送電による損失が少なく、また、複合サイクル発電方式としたことで、電力需要の変化に合わせて毎日、起動・停止と、出力を変更することが容易となった。そのため、朝のラッシュ時に総出力が最大になるよう、各発電機の起動時間をずらすなどの運転スケジュールが組まれている。反対に、列車の運転本数が減る夜間には、すべての発電機を停止する。同発電所は環境対策への取組みが評価され、環境マネジメントシステムISO14001を取得している。

水力発電もラッシュ時に対応した運転

 一方、水力発電はよりクリーンなエネルギー源として利用されてきた。信濃川の下流域に、1939年(昭14)に千手、1951年(昭26)に小千谷、1992年(平2)には新小千谷の3つの発電所が造られ、総出力は44万9,000kWにのぼっている。

 発電所の上流にある宮中取水ダムから取り入れた水は、千手発電所で電気を発生させた後、下流の調整池を経て小千谷発電所で再び発電に利用する、2段式の発電方式が採られている。水力発電では、3ヵ所ある調整池に夜のうちに水を貯めておき、朝のラッシュ時に多くの電力が発電できるよう、調整池の水を利用して発電し首都圏へ送電している。備蓄しておくことができない電気は、作ったものをすぐに使う必要があるためだ。放流時に信濃川の急激な水位の変化を防ぐため、発電所の下流に堰が設けられている。信濃川は、年間を通して水力発電所へ取水できる日数が多いことも好条件だった。

電気を着実に届ける送電ネットワーク

 火力・水力発電所で作られた電気は、架空送電線や線路脇などに敷設された地中送電線で、17ヵ所の交流変電所を経由して150ヵ所の運転用変電所に送られ、電車や信号、駅などへと供給される。22kV〜275kVという高電圧・大容量の送電設備によって架空送電線611km、地中送電線567kmのネットワークが構築されている。

 送電中に最も被害を受けやすいのが落雷だ。これに対しては、送電鉄塔へ雷害防止ホーンと呼ばれる器具を取り付けて落雷を逃し、被害を少なくすることに成功している。

 最近は省エネルギー車両の導入により、電車そのものの運行に費やす電力が減少している一方、駅舎内のエスカレータなどの機器に使われる電力は増える傾向にある。また、通勤新線の開業や大規模なダイヤ改正によって新たな電力需要が生じる場合もある。そのために、JR東日本では、首都圏全体で必要な電力を予測し、計画的に火力発電施設の新設・廃止を行なう、いわゆるスクラップ・アンド・ビルド方式により今後も発電施設の増強を図ってゆくことにしている。

(2003年5月号: 首都圏の相当部分をカバー JR東日本がもつ自営電力網)

 


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:56:57 JST