九州新幹線800系 異例のお披露目作戦

 テレビ・新聞・雑誌などマスコミ各社のスタッフを乗せた貸切バス2台が、6月13日、朝9時20分に博多のJR九州本社前を出発した。向かう先は山口県下松市の日立製作所笠戸事業所である。そこでは、この日午後、九州新幹線800系の報道向け車両公開が行なわれる。

 企業にとって、自社の新商品を広く紹介することは重要なことである。新車が完成すると鉄道各社は営業に先立って車両を報道向けに公開し、メディアに乗せて人々への周知をねらう。特急車両や新幹線となれば会社の新しい顔であり、力の入れようも違ってくるというものである。 とは言え今回、JR九州が企画した九州新幹線800系の報道発表は、いくつかの点で異例の事柄が含まれていた。

 第一は、開業までまだ9ヵ月を残し、新幹線の線路施設ができあがっていない時点での公開であることと、車両メーカーの工場内での公開であること。新線開業のさいは、施設の整備や車両の検査・試運転でスケジュールがタイトになるのが通例で、新しい車両がその間隙を縫ってあわただしく公開されることも珍しくない。また、工場内は概して狭隘で非公開の部分も多く、お披露目の場として最適とは言えない。

 そして、工場が遠く離れているという事情があるにせよ、福岡の本社前から高速バスによる送迎つきという、じつに「お膳立て」が整っている点である。しかも、道中長いことから、「つばめ」のPRもかねた特製弁当が用意された。鉄道会社による温度差もあるが、現地集合・解散であることが一般的である。

異例の公開は無関心への危機感から

 それではJR九州がなぜ、このような報道公開を仕掛けたかというと、それはある意味で広報活動が会社の命運を左右するから…と言ってもよい。

 九州新幹線の開業は来年(2004)3月である。しかし、開業区間は南九州の新八代〜鹿児島中央(西鹿児島)間であり、九州随一の都市で、需要の発生地である福岡には姿を見せない。リレー特急が結ぶとは言え、現状の「つばめ」と同じだから変化に欠ける。人々への浸透は不足しがちである。

 役員以下、JR九州社員が「来春には開業で…」と、折に触れて話の口火を切っても相手は「ほう、そんなに近いのですか」と開業時期も知らず、まして福岡〜鹿児島間がどれほど短縮されるかも知らない。福岡で認知されないということは、「のちのちボディブローのように効いてくる」と懸念する。このままではクルマや航空機からの転移は望めず、それこそ新幹線が窮地に立たされてしまう。

 一方、新規開業区間は他の新幹線と離れているため、線路完成後の試運転に他社から試験車を借りるのも容易ではない。このため、自ら車両を用意することが必要となり、いち早く車両が製造された。じつは第1編成は営業車両の姿をしているが、検測機器を搭載することで試験車の機能も果たす構造となっているのである。

 こうして早い時期に車両が完成することと、広報宣伝側の意図があわさり、公開のチャンスが考えられた。一般的なセオリーに従って車両基地搬入後の公開とすると、そのぶん時期は遅れ、さらには川内港での陸揚げなどに対する認知度も低下してしまう。このため、完成直後のメーカー工場での公開が企画され、そこへ福岡を中心とするマスコミを「連れてゆく」ことが企画されたわけである。ここで関心を抱いてもらえれば、航送や陸揚げでも興味を惹くことができるであろう。広報サイドとしてはある種の賭けであったという。

公開も式典仕立てでパフォーマンス

 関門海峡を越えて、山陽自動車道徳山東IC経由で下松に向かい、瀬戸内海に臨む日立製作所に到着したのは13時過ぎ。正門で東京方面などから参加する現地集合組の一行と合流し、バスは3台となって場内を奥深くへと進む。距離もさることながら勝手に歩いて詮索されては困るからで、工場内取材の一端がうかがい知れよう。

 今回の報道公開に参加したマスコミは、テレビ15社、新聞社23社、鉄道誌を含む出版社11社で、JR九州の呼びかけに対してNOと答えた会社は、もちろんない。

 公開場所に着くと、そこは紅白の幔幕に囲まれたうえ、撮影用のひな壇が用意されている。そして肝心の800系はまだ建屋の中に隠されていた。

 JR九州自慢の客室乗務員が一列に並ぶ中、司会進行が始まるとまもなくファンファーレが鳴り響き、タイフォンの音色とともに800系がそろそろと建屋から前進してくる。先頭はシートで覆われている。それを客室乗務員が深く礼をしながら迎える。こうしたパフォーマンスは、JR九州ならではであるが、「動画撮影組」にとっては絵になるシーンであろう。

 続いてJR九州社長と日立製作所代表者によるシートの除幕式があり、両者のあいさつや車両のキー引渡し式が行なわれた。このような式典仕立ては、公開自体をドラマティックに演出して、雰囲気を煽るわけである。そのぶん、地元で大きく報道される、あるいは「鹿児島の新幹線」が全国的に報道される確率が高まるのである。

 こうして九州新幹線の存在が知られ、評価が大きなうねりとなれば、2013年とされる博多〜新八代間の開業を2〜3年繰り上げることができるのではないか。それが一刻も早く博多口をつなげたいJR九州の思いなのである。

 日立製作所で公開された800系は、今後は船で川内に運ばれるが、一時的な博多港への寄港もアイデアの一つである。川内での陸揚げや試運転開始など、それからも多くのニュースが伝えられるに違いない。利用者がついてこその輸送機関なのである。

(2003年9月号: 九州新幹線800系 異例のお披露目作戦で売り込み)

 


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:56:59 JST