真空吸引式トイレ †長距離列車の旅行で不可欠なトイレ。従来、一般的に多用されていたのは循環式であったが、最近は多くの新造車両で「真空吸引式」が用いられている。 現在、真空吸引式を手がけるメーカーの1社、(株)テシカ(東京都大田区)によると、その構造は2種類に大別されるという。第一は便器の下部をシャッターで閉め切り、それより下部を密閉し、エジェクター(真空発生装置)で貯留タンク内を真空にしたのち、シャッターを開くと排泄物が瞬時に吸引されるというもの。水流の勢いに頼るのではないから、便器の洗浄には、牛乳瓶1本ぶん程度の少量をフラッシュさせればよい。少量の水しか要しないということはタンクを小さくでき、鉄道車両や航空機では非常に大きなメリットとなる。 もともと鉄道車両のトイレや洗面所は、いわゆる「垂れ流し」式で、水タンクは上水系だけを考えればよかった。しかし、それによる「黄害」が問題になってくると、下水系を貯留しておく必要に迫られる。このため、循環式が昭和40年代に開発(これも同社による)され、下水となった水を何度も濾過しながら使い、過大なタンクの増加や、頻繁な水補給による車両運用効率の低下を防止した。しかし、水の濾過利用も水質の低下は免れず、次第に匂いも強くなる。 そこで登場したのが真空吸引式で、洗浄水には清水を使い、悪臭に対しても有効となる。日本の鉄道で最初に本格採用したのは1992年登場のJR九州787系「つばめ」で、このころは国内メーカーが海外メーカーと技術協力関係を結び、部品も外国製を多用したものだった。したがって、アフターケア面の心配からユーザーである鉄道会社に躊躇がなかったわけではない。その後、国産化への改良・開発が進んだことで、普及を見せることになる。 循環式のようにトイレ直下にタンクがなくてもよいため、真空で強く吸引できる範囲ならば配管を伸ばしてトイレをどこに設置してもよく、したがってE26系「カシオペア」(1999年)のように個室ごとにトイレを設けるサービスも可能になった。 一方、第一方式のあと、第二方式の真空吸引式が完全国産体制で開発された。これは便器と貯留タンクの間に予備タンクをはさみ、この予備タンクを真空にして排泄物を吸引したのち、そこから貯留タンクへは今度は圧縮空気を噴射して送られる。大きな貯留タンク自体を真空にする必要がなくなったため、装置や空気配管が便器周りのみに納まるほどコンパクトになった。また貯留タンクは通常圧のため、特段に強度を増す必要はなく、循環式から真空式への改造も便器周りだけでよくなった。 1994年製のJR東海「しなの」の383系が最初で、同社373系、JR東日本E351系「スーパーあずさ」、E653系「フレッシュひたち」、E751系「スーパーはつかり」、小田急10000形EXEなどが採用している。 なお、これら真空式よりも簡素で、機械的なメンテナンスが容易なものとして「清水空圧式」があり、1990年代初頭に誕生したJR東海300系新幹線が採用したが、その後は真空式がトレンドとなった。しかし、最近になって改めてクローズアップされ、JR東日本E2系1000番台や京成スカイライナー・リニューアル車に使われている。 (2002年4月号) |