大人の休日

 「大人の休日」は、シニア層をターゲットにした旅行商品などを提供するJR東日本独自のブランドである。2001年7月にスタートして1年半が経過した。

 従来、シニア世代をターゲットにしたJRグループ6社共通の会員組織としては、国鉄時代の1985年から「ジパング倶楽部」が存在した。男性は満65歳以上、女性は満60歳以上で、夫婦の場合はどちらかが満65歳以上ならば入会でき、JR東日本の場合の会員数は約71万人におよぶ。今後、2015年には人口の1/4が65歳以上となることが確実であり、鉄道のマーケットとしてもシニア層がメインターゲットになると考えられている。

 このようなおり、従来のJR東日本の会員向け旅行商品は高品質・高価格のものを中心に設定していたが、利用率は全会員の1割以下という状況であった。そこで、会員シニア層の行動や意識をアンケートにより分析して、以後の商品設定に反映させることとしたのである。

 そこで浮かび上がってきたシニア層の特徴は、実年齢より若いと感じている人が多い、生きがいを感じリタイア後の時間を自分自身の貴重なものと捉えている、社会からはリタイアしておらず世の中とのつながりを重視している― というものだった。また、このような層は非常に旅慣れており手助けを必要としない、自由な旅行への欲求が高い、たんなる観光以外に付加されるものを求めている― などの傾向がある。こうした層は「アクティブシニア」と位置付けられ、従来の商品設定では全体にカバーできていないことが判明した。

 そこで、こうしたアクティブシニアに合った商品として、大きなリニューアルや商品の拡充を行なった。そのさいに名づけられたブランド名が「大人の休日」である。

 シニア層といえば高品質・高価格という認識を改め、低価格志向に対応したものとしては「簡単お出かけパック」などを設定、添乗員つき豪華旅行という固定概念もなくして個人型旅行を大幅に拡大している。一方、テーマを深く掘り下げた歴史探訪や文学散歩などの商品も設定し、人気となっている。これらは旬、夫婦、健康・癒し、知的好奇心、趣味をキーワードとしている。

 商品を浸透させるために、JR東日本エリア内のジパング倶楽部会員に配布する冊子を『ジパング旅仲間』から『大人の休日』に変更した。著名人のエッセイ、衣食住や趣味の情報を多く盛り込んでいる。今回12月1日のダイヤ改正で、新幹線グリーン車のサービスを拡充し、専任スタッフのグリーンアテンダントを乗務させているが、同時に主たる利用者層であるシニアへの訴求を高めるために車内誌として、『大人の休日』を配置することとした。

 さらに、会員組織の中で双方向コミュニケーションを図るため、「趣味の会」の組織拡大を進めており、多数の講座の開設やそれにともなう参加者の拡大を図っている。また、会員に対して旅や趣味に関する質問や相談を受ける電話窓口を10月から本格的に稼働させ、これによりニーズを把握して新たな商品開発に反映させている。

 今後の展開としては、従来はJR切符の割引など、会員全体に対するサービスを中心としていたところ、個別のニーズに対する取組みを強化してゆく。異業種との連携も深めて、高い価値が見出せるようなコミュニケーション組織に成長させてゆくという。シニア層獲得のためのアプローチは、たんに鉄道の切符や旅行商品を販売するという段階を超えているようである。

(2003年2月号)


大人の休日」はアクティブシニア指向

 JR東日本がジパング倶楽部事務局が会員に採ったアンケートによると、年齢をあまり意識しない、活動的なシニア像が浮かび上がった。行動的で、知的好奇心にあふれ、若者にはまだまだ負けない、と自負するシニア層が目立っている。

 ジパング倶楽部の会員は、JRの運賃と料金の一部が2〜3割引になる「JR乗車券購入証」の利用を目的に入会した人がほとんどであろうし、ジパング倶楽部もその点を「売り」の一つにしている。こうした人たちが活動的なのは当然であるが、1年につき20回分あるJR乗車購入証の平均利用枚数は5枚前後、もちろん20枚すべて使う人もいるが、最も多いのは年間3枚程度である。つまり、活動的なジパング倶楽部会員にして、年3回の旅行を楽しむ層がいちばん多いことになる。

 また、ジパング倶楽部は団体旅行も手がけており、年間6割の催行率を誇るが、年齢にあわせたゆとりのあるスケジュール、シニアがくつろげる宿など、高品位な旅を志向するためか、比較的高額に設定されており、JR東日本ジパング倶楽部では約68万人の会員のうち、参加者は約1万人にとどまっている。

 そうした残り67万人の個人旅行を楽しむ人たち、ひいては非会員だが旅好きの高齢者を掘り起こす目的で、JR東日本では2001年7月に活動的な年配者をターゲットとする「大人の休日」を立ち上げた。

キーワードは「アクティブシニア」

 定年退職になり、悠々自適の生活に入った高齢者には、かつては枯れたイメージがあったが、日本人の平均寿命が男女とも80歳前後である今、そういう人はほとんどいない。再就職先を求めたり、悠々自適の生活を営むことができる人でも、家に閉じこもってばかりで社会と隔絶するのは嫌だ、世の中とつながっていたいという意識は旺盛である。こうした時間と資金に余裕があり、旅が好きな高齢者がジパング倶楽部に入会する。会員には旅の情報源となる全国共通の会報が毎月送付されるが、JR東日本ジパング倶楽部はそのほかに「大人の休日」のタイトルを付けたツアー情報誌を同封している。

 冊子「大人の休日」に掲載されているツアーは、「旬の魅力を味わう旅」「夫婦の対話が新鮮になる旅」「のんびり、ゆったり「癒し」の旅」「知的好奇心を満たす旅」「旅の仲間を広げ深める旅」の5つのカテゴリーに分けられている。

 先述の活動的なシニア像を象徴するのが「知的好奇心を満たす旅」「旅の仲間を広げ深める旅」で、「大人の休日」立ち上げ以前にも、自然の中をトレッキングするツアー、短歌・俳句をよむツアーなどが好評を得ていた。ここで趣味を同じくする仲間を見つけ、仲間の輪が広がり、「次回は一緒に行きましょう」と声を掛け合っていく姿がいくつも見られるようだ。ジパング倶楽部としては、きっかけを提示し、前へ進む手助けをするだけというが、こうした「趣味の会」が進展することでツアー参加者が増え、ひいては鉄道のファンに結びつき、会社の収益に貢献する。

シニア向けは新たなビジネスチャンス

 旅を中心にシニアを応援するのが「大人の休日」ブランドの位置づけである。旅行商品だけでなく、異業種にもブランドが冠されている。例えば、「大人の休日」駅弁や清酒「大人の休日」など。

 駅弁は東京地区だけでなく、JR東日本管内の駅弁業者の協力のもと作成され、3月で計15種類が発売されている。素材を吟味し各地域の名産・郷土料理を取り入れ、指向にもあわせて食材にこだわったが、そのぶん価格が高めの駅弁が多く、またシニアにあわせてボリュームもほどほどである。「青春18きっぷ」を利用し、食事は駅そばでという若者には不向きだ。清酒は720ml、3,500円の純米大吟醸と、これも特別な日に飲むようなものが高価な商品である。

 年に数回の旅行という「ハレの日」にふさわしいものであるが、こうした高価格が設定できるのも、いちばん金銭的な余裕があるのがこの世代といわれているからであろう。勤めをリタイアし、子供も独立して好きなことに時間がかけられるようになったシニア世代に、何百万もするバイクやヨットがよく売れているそうだ。シニアやシルバーエイジへのアプローチが、新たなビジネスチャンスにつながると、各界の流れは共通である。鉄道会社としても、こうした需要の存在は強く感じている。JRはジパング倶楽部を組織し、顧客の囲い込みをある程度している。それをもっと発展させることが目標である。

パソコンに挑戦するシニアも

 JR東日本のホームページに「大人の休日」を紹介したコーナーがある。その中にはジパング倶楽部会員専用のページもあるが、冊子にのっているパスワードを入力しないと見られない。60歳を過ぎた高齢者が果たしてホームページを日常的に利用するのか疑問に思ったが、パソコンを使えるようになりたい欲求はかなり高いようだ。

 そこでJR東日本ジパング倶楽部は、高齢者に合わせたカリキュラムを組んだパソコン教室を開講した。これはたいへん評判を呼んでいる。「知的好奇心にあふれた高齢者」の姿はここにも見られる。このほかに女性向けに「美容塾」を設定するなど、カルチャースクール的な面も見せてきた。

 高齢化社会に移行しているいま、アクティブシニアはこれからどんどん増えるであろう。この世代にアプローチしていくことで新たな鉄道応援団が掘り起こせる。

(2002年6月号: 「大人の休日」はアクティブシニア指向)

 


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:57:02 JST