停車場 †「駅」という言葉は、まず解説の必要なく思い浮かべることができる。「停車場」と言えばやや時代がかった言い方であるが、通常、同義にとらえられる。路面電車では「停留所」という言い方が一般的であり、列車や電車に乗降するための施設と考えて差し支えない。しかし厳密な制度面や技術面からすると、これらはそれぞれに一般的な理解より詳細な定義がなされている。 1987年(昭62)4月にJR各社が発足する以前の日本の鉄道は、日本国有鉄道と私鉄に大別でき、準拠する法律が日本国有鉄道法と地方鉄道法に分かれていた。その日本国有鉄道法の下に省令として定められた日本国有鉄道建設規程では、次のように定義していた。 「停車場」とは、駅・操車場・信号場を指すもので、「駅」は列車を止めて旅客や荷物を取り扱うため設けられた場所、「操車場」は列車の組成や車両の入換を専門に行なう場所、「信号場」は駅ではない場所で列車の行き違いや待ち合せを行なう場所。 一方、地方鉄道法の下に定められていたのが地方鉄道建設規程で、旅客や荷物を扱うために列車を止める個所で転轍機の設備(分岐器)があるものを「停車場」、ないものを「停留場」と規定していた。停留場は閉塞中間駅、いわゆる棒線駅である。 つまり、国鉄では「停車場」という言葉は列車の発着場所の総称的なものとして、私鉄では駅の形態を細分するものとして規定されていた。そして、地方鉄道については「駅」自体を定義する条項、国鉄についてはポイントの有無により駅の形態を区別するような条項は見当たらない。 1987年4月以降は、国鉄改革を機にJRも私鉄も同じ立場となり、準拠法は鉄道事業法に統合されたが、これにともない駅などの定義についても普通鉄道構造規則に規定されることになった。ここでは条文の表現は変わったものの、「駅」「信号場」「操車場」が前記の国鉄流に区別され、総称としての「停車場」も規定されている。2002年4月に「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」に改正されたが、やはり同様に定義されている。 一方、「信号所」という用語もある。日本国有鉄道建設規程では、停車場ではないが「手動または半自動の常置信号機を扱うために設けた場所」を指した。また、信号場は構内を有するが、信号所は構内をもたないと注記された。つまり、かつて分岐器は、それを操作するてことの間をワイヤーなどで機械的に結び作動させていたから、てこと分岐器本体をむやみに遠く離すことはできなかった。そのため、停車場の中心部からかけ離れた場所の分岐器は、その付近で操作していた。それが信号所である。 ただし、この信号場や信号所の区別については、地方鉄道の規定では明確に定義されていないためか、私鉄では同義にとらえていたケースも見られた。かつて、箱根登山鉄道でもっぱらスイッチバックや行き違いだけのために設けている出山・上大平台・仙人台の3ヵ所は、いずれも信号所と称していたのも一例である。しかし、現在は「出山信号場」などとしている。 また、湘南新宿ラインや「成田エクスプレス」などが通過する「蛇窪」や「目黒川」の分岐点は、いずれも大崎駅構内に含まれるため、「蛇窪信号場」などと表記するのは正式には誤りである。これらの名称は、運転上・管理上、場所を特定する必要があるため、通称として用いられているのである。 (2003年4月号)
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