鉄道を元気にする取組み

 国土交通省鉄道局は、2004年から鉄道事業者等による「鉄道を元気にする取組み」を収集し、鉄道全体に広める取組みを行なっている。

 鉄道の利用者総数は1993年度をピークに減少が続き、その背景には少子高齢化・過疎化、マイカーの増加などが挙げられる。この傾向は地方の閑散線区で顕著であり、鉄道の存続が危ぶまれ、実際に廃止に至る実例も出てきた。一方、エネルギー・環境問題や労働力不足、高齢化などを考えると、逆に鉄道に期待すべきものが少なからずあり、そちらへの誘導も重要になっている。こうしたなか、鉄道事業者ごとには経営合理化や新たな商品開発、自治体の協力など、さまざまな施策が見られる。また、近年は沿線自治体や住民、NPOなど一般の立場から地域鉄道の存続を考える「マイレール」運動も起こっている。

 しかし、こうした事業者や地域ごとの活動の詳細は、鉄道網が稠密な都市内であれば近隣の事例として目につき参考にもしやすいが、地方では、遠方の情報を日常的にチェックすることはできない。つまり、情報の共有化が不足し、貴重なノウハウが内部で眠ってしまっているのが現状である。

 このため国土交通省鉄道局が、全国の地方運輸局経由で各地の事例を収集して「ベストプラクティス集」としてまとめ、逆にその成果を運輸局を通じて各鉄道事業者や行政関係者などに配布(非売品)するとともに、インターネットにより一般にも公開することとした。この事例は「鉄道の再生」という大きなテーマ以下、「地域による鉄道の振興」「他のモードとの連携」「イベントによる集客」「イベントと連携した臨時運行」「運賃の工夫」「その他」の7つのカテゴリーに分類され、「加越能鉄道から万葉線への生まれ変わり」という会社組織の転換から「巡回清掃専門チーム “スマイルアップ・クルー”」(相模鉄道)まで、合計34の実例を挙げている。これに対して、「鉄道を元気にする34の取組み」と副題が付けられたものである。

 なお、これらは各運輸局がそれぞれに好例と判断したものを幅広くピックアップし、そこに挙がったものについて重複するものだけを整理した。このため、とくに明確な選定基準を設けて公募やコンペなどを行なったものではなく、すべてを網羅する統計的な資料集とも異なる。

 しかし、内容はたんに取組みを示すだけでなく、路線規模、利用や収支の状況、沿線人口などを掲載して、それぞれの「身の丈」にあった実例を見つけやすいようにしている。また、人材(協力者)の所属、それぞれの過程で行なった準備の様子(例えば会議の回数や内容)、実績、取組みに成功した理由、場合によって失敗した理由も掲載し、「実務者にとって最も気になる情報」を重視したものとなった。冊子は2004年10月にまとめられたが、そのエッセンス的内容はひと足早く同年6月に鉄道局ホームページにもアップされている。今後は過去の事例を掘り起こしたり、また今回の事例集を足がかりに新たな施策が蓄積されたさいに、続編を刊行する意向であるという。

 一方、鉄道局ではこうした「鉄道を元気にする取組み」の一環として、環境問題から鉄道の優位性を訴える「1/10キャンペーン」を今秋から展開する。1997年の地球温暖化防止京都会議で、日本には2010年に温暖化ガス排出量を1990年比で6%削減する目標が課せられたが、交通機関における排出量は5割増と、逆に大幅に悪化している。トラックを含む事業系輸送では目標は達成されつつあるので、悪化の主因はマイカーの増加といえる。

 このため、京都議定書発効(2005年2月)などを契機に、鉄道の二酸化炭素排出量は「自動車の1/10」と強くアピールし、それにより鉄道そのものの地位と利用を押し上げようとするキャンペーンである。また、鉄道業界一丸での環境への取組みとアピールし、利用者に選択の動機をもたらし「身近」で「おトク」な存在であることを示せるよう、鉄道事業者全体に対しても積極的な関与と、それに呼応する施策の展開を呼びかけてゆくものである。

(2005年10月号)

 


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:57:04 JST