鉄道文化財

 2001年11月14日、北海道小樽市の「旧手宮鉄道施設」が文化庁により国の重要文化財に指定された。旧手宮鉄道施設は、小樽交通記念館構内とその周辺に残された鉄道施設で、機関車庫(1号・3号)・転車台・貯水槽・危険品庫・擁壁などで構成される。これらの施設は、1880年(明13)11月に開通した北海道最初の鉄道‐幌内鉄道の起点である旧手宮駅構内にあったもので、日本近代史上における北海道の役割や、産業形態などを考えるうえで貴重であるとされた。以前はJR北海道の所有だったが、2001年4月に小樽市に譲渡されている。

 文化財保護法では、文化財を「有形文化財」「無形文化財」「民俗文化財」「記念物」および「伝統的建造物群」と定義し、とくに重要なものを「重要文化財」「史跡名勝天然記念物等」として、国が選定し重点的な保護対象としている。有形文化財は、「建造物」とそれ以外のものを総称する「美術工芸品」のカテゴリーに分類される。

鉄道記念物

 一方、鉄道について歴史的価値を評価したものとして、古くから「鉄道記念物指定制度」があった。1958年に指定された1号機関車(交通博物館蔵)は指定第一号である。ただし、この鉄道記念物は国鉄という「事業者」が指定していたもので、国の保護や助成措置などがあるわけではない。国鉄分割民営化後は、それを所有する各事業者の自主管理に委ねられている。

 ところで従来の一般的な考えで有形文化財といえば、社寺仏閣を中心とする建造物や、仏像や絵画などの古い美術工芸品であり、近代産業に関するものを対象とする考えは希薄だった。しかし、昭和50年代ごろから、それも一つの文化財としてとらえる見方が育つ。この時代は蒸気機関車が終焉したように、技術革新により消滅するものが多くなってきた時期に重なる。それにより鉄道にも国の重要文化財の目が向けられ、1988年12月に鹿児島本線門司港駅舎が初めての重文指定を受けた。次いで1993年8月、旧信越本線碓氷第三橋梁(レンガ橋)などの橋梁群が指定された。ここではとくに近代化遺産の考えが織り込まれ、のち、トンネルや変電所も追加された。

 その次が1997年6月指定の1号機関車となる。ところが、鉄道車両は動かすことが可能である。そのため1号機関車は建造物としては認められず、「美術工芸品」としての指定となっている。

 このあと鉄道関係の重文指定には、三重県四日市市のJR貨物線上にある跳開式可動橋の末広橋梁(1998年10月)、今回の旧手宮鉄道施設などがある。

 一方、近代の「建造物」をより多く、幅広く、後世に伝えてゆくため、新たに「登録文化財制度」が1996年10月に導入された。厳選して許可制を敷いている重要文化財指定制度に対して、届出制と指導・助言などを基本とするゆるい保護措置をとり、歴史的価値感を普及させている。

 山陰本線萩駅舎、南海電鉄本線浜寺公園駅舎、一畑電鉄出雲大社前駅舎、天竜浜名湖鉄道扇形車庫・転車台ほか、近畿日本鉄道宇治山田駅舎などがある。

 これらを適切に活用してゆくことは、鉄道各社の文化的ステータスにもつながり、地域づくりを進めるうえでも有効だろう。

(2002年4月号)


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:57:04 JST