多角的な踏切事故防止対策

 帰省客でにぎわう8月14日、JR東海紀勢本線の相可第2踏切(警報機・遮断機なし)で、紀伊勝浦発名古屋ゆき特急「南紀4号」が軽乗用車と衝突、軽乗用車に乗っていた2人が死亡し、1人が重傷を負った。テレビニュースで映し出された事故車はグチャグチャにつぶれ、とてもクルマとは呼べないくらいひどいありさまで、事故の悲惨さをまざまざと見せつけた。

 相可第2踏切のような警報機・遮断機とも備わっていない踏切のことを第4種踏切と呼び、1998年度の統計でJR・民鉄あわせて約4,900ヵ所ある。ちなみに、全国には警報機・遮断機つきの第1種が31,074ヵ所、警報機つきの第3種が1,497ヵ所ある。(時間を決めて遮断機を作動させる第2種踏切は第1種に格上げ、または廃止され現存しない)第4種踏切の大半は、地方の細い道路などに残るが、道路の交通量が少なくても事故が起きれば悲惨な結果になるばかりでなく、鉄道・道路利用者双方の足を乱すことに違いはない。そのため鉄道事業者は、第4種踏切については第3種または第1種に格上げし、第1種・第3種は立体交差化などで減らす方向に努力をしている。

 こうした踏切の改良に加えてJR東日本では、踏切の現場などで通行者に対し事故につながる無謀横断をしないように呼びかける「踏切事故防止」キャンペーンを、1991年から実施している。

遮断捍を突破する生々しいCMを放映

 このキャンペーンは、当初、年に1回実施しており、時期および期間については統一されていなかったが、1996年からはとくに交通量の増える年末年始と夏のレジャー時期に実施している。

 影響力の大きいテレビ・ラジオ・新聞・交通広告を主体に、駅にポスターを掲出し踏切事故防止を呼びかける戦略と、踏切および駅などで歩行者やドライバーに直接、踏切横断のマナーや、踏切内で立往生したときの脱出方法を記したチラシなどを配付するといった、直接訴えかける方法から成り立っている。テレビコマーシャルといえば、キャンペーンの初期に、トラックが下りかけた踏切遮断捍を強引に突破する映像で注目を集めた。無謀なトラックの傍若無人さとともに無惨に折れて地面に転がる遮断捍が生々しく、直前横断の危険、恐怖を表現していた。

 また、チラシ類を配る場合も、たんに手渡すだけでは中身を読まれることなく捨てられる可能性もあるので、マウスパッドなどグッズを添えることもある。チラシやグッズなどはJR東日本本社から各支社に渡され、いつどこで配付するかといった実際の計画は支社単位で検討される。

踏切事故を減らすための数々の対策

 鉄道会社では、踏切内で歩行者・自動車等と列車が接触・衝突した場合を「踏切事故」、列車が停止して事故は回避できたが運行に影響が出た場合を「踏切支障」として区別している。JR東日本管内で発生した踏切事故件数は、発足初年度の1987年度は247件であったが、これが1999年度には51件に減少した。

 12年間で1/5と劇的なまでに少なくなった背景には、踏切への障害物検知装置の設置が大きな力になっている。障害物検知装置の設置数は1987年には235ヵ所であったが、1999年度には2,339ヵ所に増えた。設置数の増加にともなって踏切事故件数が減少したことになる。障害物検知装置はいくつかの方式があるが、いずれも踏切内に自動車等が立往生したような場合、800m手前からでも異状を確認できる特殊信号発光機などを作動させ、接近する列車を停止させる手配をとる。 障害物検知装置だけでなく、踏切の幅が道路より狭く脱輪しやすい個所を拡幅したり、前後が坂になって踏切部分だけ高く見通しが悪い個所を平らにするなどの踏切施設の改良も効果があった。

 このほかに、踏切の入口に鳥居のようなものを設置し踏切の存在を目立たせている「オーバーハング型警報器」、通常より太い遮断捍を採用した「大口径遮断機」の導入、また、警報機に非常停止ボタン併設などが行なわれた。

 なお、2000年度の踏切事故件数は84件と増加した。この年の冬は東北地方を中心に豪雪に見舞われ、スリップや視界不良が事故につながったのでは…と見られている。

踏切内で立往生した場合はどうするか

 JR東日本管内の7,400ヵ所の踏切で、年間で約3千本の遮断捍が折られている。監視カメラを備えている踏切で録画された映像を、事故となったときの証拠物件として警察に提出することもあるという。ただし遮断捍を折るシーンは、先述のコマーシャルのように踏切を強行突破する場面のみが想像されるが、実際には、渋滞にひっかかり踏切内に取り残されたようなときに間一髪、遮断捍を押しのけて脱出したという場面もある。事故を避けるために、緊急に遮断捍を折ることもやむをえない。キャンペーンで配られるチラシに、踏切内に取り残されたときは脱出を図るなり、非常停止ボタンを押す、列車に向かって大きく手を振る、発煙筒や赤色灯などで急を知らせるよう記されているのは、「当たる(事故になる)前に(列車を)止める」ことが大切であることを訴えているからだ。

 キャンペーンと積極的な施策で踏切事故は目に見えて減ったが、絶滅には至っていない。鉄道事業者側で行なえる対策には限りがあるが、対策をさらに進めるとともにこれからはドライバーの「安全」に対する意識改革がより重要になるだろう。

(2001年11月号: 多角的な踏切事故防止対策


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:57:06 JST