梅小路蒸気機関車館とB20

 今、SL列車は各地で競うように運転されるが、それ以前から、日本で蒸気機関車の動態保存が見られる施設として京都の梅小路蒸気機関車館は代表的なものだった。動力近代化の進捗にともなう国鉄蒸気機関車の最期をひかえて、1972年(昭47)、日本の鉄道100年を記念して誕生した梅小路蒸気機関車館は、日本唯一の蒸気機関車専門の博物館である。

 かつて蒸気機関車の基地であった梅小路機関区の扇形車庫を活用し、ここに大正から昭和にかけての代表的な蒸気機関車を保存展示している。機関車とともに、この機関庫がシンボルを務めてきた。

 現在の保存車両は16形式18両。静態保存では、9600形、D50形、C51形、C53形、C55形、C11形、C58形、C59形、D52形、D51形1号機とC62形1号機の11両があり、動態保存では8620形、C61形、D51形200号機とC62形2号機、「SLやまぐち号」に運用されるC57形とC56形、それに昨年復元工事が行なわれたB20形の7両がある。静態保存の機関車は梅小路蒸気機関車館が、動態保存の機関車は梅小路運転区がそれぞれ管理している。

 現在でも、機関車館と運転区は別の組織に分かれており、展示車両の運転や整備は運転区が担当している。休館日の月曜日を除く毎日11時、13時30分、15時30分から「SLスチーム号」が運転されている。これは来館者に実際の蒸気機関車が牽く列車に乗ってもらおうと、1994年に始まった催しである。従来から機関車単機での展示運転は行なわれていたが、トロッコ客車2両に乗車する体験型へと装いを改めた。

JR発足で生まれ変わった機関車館

 国鉄時代、大阪鉄道管理局の管轄であった梅小路蒸気機関車館は1987年にJR西日本の管理となるまで、ほとんど手が加えられない状態であった。その後1992年に400mの新展示運転線を作り、1994年に京都市が機関車館の周囲の土地を国鉄清算事業団から買い取って公園化したことも重なり、1996年からは展示運転線を100m延長するなど大規模な改修を行なった。

 代表的なものが旧二条駅舎の移築で、これは京都市指定有形文化財にも指定されている歴史的価値の高い建物でもある。日本最古の木造駅舎であり、1904年(明37)に山陰本線の前身である京都鉄道が、本社の社屋も兼ねて建設したものである。1996年、嵯峨野線(山陰本線)二条〜花園間の連続立体交差化事業に合わせて駅舎が改築されることになったため、これを機関車館に移築・復元し、1997年7月にリニューアルオープンした。現在はエントランスおよび資料展示館として利用され、入口を飾るにふさわしい、堂々とした構えを見せている。

 展示室にはC11形機関車の実物カットモデルや投炭練習機、運転操作を解説したビデオ放映など、『蒸気機関車のことなら「何でもある」「何でもわかる」博物館』をキャッチフレーズに、実物に触れられる生きた鉄道の博物館をめざしている。

子供たちに人気の小型タンク車 B20

 昨年10月、機関車館の創立30周年とJR西日本発足15周年を記念して、B20形機関車が新たに動態復元された。全長7m、重量20.3t、動輪直径が860mmの構内用小型タンク機関車で、第二次大戦時中の物不足の時代に、なるべく資材を節約し手軽に作れるよう設計され、石炭輸送用の貨車や機関車の入換を主な仕事とした。現在では2両が残るのみで、同館に保存されている10号機は1946年(昭21)に富山の立山重工業で製造され、姫路、鹿児島機関区に配属されて24万kmを走行した。

 1972年(昭47)に機関車館へ搬入された当初は動態保存の予定であったが、搭載される蒸気ブレーキの修繕がむずかしく、静態になったという経緯がある。その仕組は、蒸気をシリンダーに送り、ピストンの力で制輪子を押して制動をかけるもので、1号機関車や弁慶号など鉄道黎明期に使われた技術である。B20形では、用途が入換に限定されるため、特別に採用されていた。

 ずらりと並ぶ大型の蒸気機関車の中ではずいぶんとミニサイズだが、大型の機関車ではその大きさに驚いて、汽笛が鳴るだけで怖がって逃げ出す子供たちも多く、機関車館としても親しみの持てる小型タンク機の復元が以前から望まれていた。

 昨年4月から始まった復元作業では、全国からボランティアを募り、1回40人のグループが5回にわたって作業に参加した。梅小路運転区の職員が指導にあたり、復元の過程で参加者には蒸気機関車により興味を持ってもらい、また、職員に対しても先輩から修繕技術を継承させるというねらいがあった。現役の社員だけでの判断がむずかしい部分は、資料をあたり、OBからも多くの助言を得たそうである。

 B20形は火曜日から金曜日の「SLスチーム号」運転後に展示運転線を行き来し、転車台を使って方向転換と出入庫も披露している。甲高い汽笛は愛嬌があり、「きかんしゃトーマス」にも似て、子供に人気がある。

 2001年度の当館の入館者数は約18万7千人で、そのうち20%を団体客が占める。近畿圏を中心に幼稚園児や小学生の社会科見学、中学生の修学旅行での来館者が多いそうだが、一方、全体では個人客が約80%を占めている。交通博物館や交通科学博物館と比べても、とくに個人の大人が多く、それも関東からの来場者が3割を占めるのが特徴と言える。

 そのような中で復元されたB20は、大型蒸気機関車とともに、独特で貴重な姿と技術を披露している。

(2003年6月号: 梅小路蒸気機関車館とB20)

 


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:57:07 JST