非常停止ボタン

 1月26日、JR山手線新大久保駅で、ホームから転落した乗客と、救助しようと線路に下りた男性2人が進入してきた電車にはねられ、3人とも死亡するという事故が起こった。この事故はマスコミ等でも大きく報道され、ホーム上の安全対策や転落時の避難方法などに関しても波紋を広げた。

 JR東日本の大塚睦毅社長は2月6日の定例記者会見でこの点に触れ、当面のホームでの安全対策を発表した。報道によれば、(1)夕方のラッシュ時から終電まで間、山手線各駅に警備員を配置してホームの巡回を強化する(2月1日から実施)、(2)ホーム下に待避スペースや反対側への逃げ道がない高架構造の4駅(新大久保・東京・五反田・西日暮里)8ヵ所に転落検知マットを新たに設置、(3)首都圏25駅に設置されている列車非常停止装置を新日本橋や馬喰町など15駅にも設置するとともに、既設駅も列車非常停止ボタンの設置位置をわかりやすくし、あわせて利用者に周知する「プラットホームキャンペーン」を実施、(4)資材置場とされてきたホーム下の空間を、線路に転落した乗客が逃げこめる「避難場所」にできるかどうかスペースの有無を調査する、(5)ホーム下に待避スペースを確保できない場合は線路からホームに上がれるようにステップの設置を検討する、などの内容である。このうち、転落検知マットは同社管内で現在26駅に設置されており、線路上に乗客が転落した場合に自動的に関係の信号が赤に変わり、列車の非常停止を図る。

非常停止ボタン

 また、非常停止ボタンは、緊急時に駅員や居合わせた乗客がボタンを押すと、周辺の列車が駅に進入しないよう緊急に停止させる。また、ATC区間以外では、場内信号機などに赤を現示するとともに、特殊信号発光機が設置されている場合はこれを使用して停止信号を現示して運転士らに急を知らせ、接近する列車がホームに進入するのを防ぐようにするもの。非常停止ボタンは1965年からホームに設置されており、JR発足後、増設とともに設置個所が目立つように改善されていた。今回のキャンペーンでは、LED表示装置や構内放送などを通じて、緊急に列車を止めたい事態を見たときは非常停止ボタンを押すよう、繰り返し案内されている。

 営団・都営地下鉄の一部で導入されているホームドアや転落防止柵の設置に関して、大塚社長は、山手線は地下鉄に比べ利用者数が多く、設置によってさらなる混雑や新たな危険を招きかねないとして、現時点では設置はむずかしいとの考えを示した。実際のところ、ホームドア(柵)は通過線のない新幹線駅、新交通システムや営団地下鉄では新設路線の南北線で採用されているが、いずれも乗降客数は比較的少ない。また、都内の山手線・中央線などに電車が走り始めたのは1910年前後であり、現在の水準から見れば施設が狭隘でホームも幅の狭いところが多く、大規模な改修が必要なだけに困難がともなう。

 JR東日本によると1999年度に管内の駅で発生したホーム転落事故は20件で、うち12件が死亡事故となっている。車両の連結面間に転落防止幌を取り付けるなど事故防止策はとられているが、今回、さらなる安全対策を迫られたところに事故の反響の大きさがうかがえる。

(2001年4月号)


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:57:08 JST