ファンの拡大を図る 品川鉄道探検隊

 鉄道の車両工場や車両基地の一般公開はレールファンの楽しみの一つで、夏休み期間や「鉄道の日」の恒例行事になっている。通常、車両基地の公開は車両の撮影会、検修作業の実演、グッズの販売などが主体で、撮影会やグッズ販売の屋台などはレールファンが取り囲み、終日大盛況となる。ほとんどが土・日曜日に行なわれ、入場無料であるところが多い。

わくわく品川鉄道探検隊に参加

 そうしたなか、JR東日本品川駅では2000年から夏休み期間に、広大な駅構内を舞台にした「わくわく品川鉄道探検隊」を催している。品川駅構内は、7本14線のホームがある品川駅、田町〜品川間2.2kmの東海道本線上下線に挟まれた形で配置された田町電車区、構内の東海道本線下り方にある保線基地などで構成され、その広さは約42万平方m、東京ドーム10個分に相当する。

 「わくわく品川鉄道探検隊」は他の車両基地公開と若干異なり、構内を探検するツアーとして有料で参加者を募集し、午前と午後1回ずつ、駅から列車でメイン会場へ向かう。今年は8月26〜29日に実施、このうち初日午前のイベントをのぞいてみた。

 平日ながら夏休みの最中ということで、親子連れを中心に少年レールファンや中高年などで、ほぼ150人の定員に近かった。参加者は10時前に10番線に集まり、167系メルヘン車に乗って、運転士・信号係と輸送指令との入換信号を切り替えるやりとりの実況放送からイベントは始まった。道中、最古参駅員が語る品川駅の歴史、構内の概要などを聞きながら、停留する客車群をぬって構内中ほどの高輪群線の2番線へ運ばれた。ここには「ロイヤルエンジン」EF58形61号機、スーパーエクスプレスレインボー塗色のEF65形1118号機、試験車両E993系「ACトレイン」が展示されていた。

 一行はまず、1925年製の転車台を見学し、保線係からマルチプルタイタンパーやバラストレギュレーターの説明を受けた後、1時間ほどフリータイムとなり、親子で軌道自転車の運転したり、車両の前での記念撮影や、グッズ販売コーナーでの買い物など、大いに楽しんだ様子である。集合がかけられ再び167系に乗る。

 駅へ向かう間も殉職・殉難慰霊碑と、品川駅で最も古い建物である列車ボーイの詰所(1936年建造)の脇を走るなど、「探検隊」の名にふさわしく、いろいろな施設を見聞する。最後に自動洗浄機に突入。窓にたたきつけられる水の音と子供たちの歓声を聞きながら、品川駅10番線に戻って、解散。参加者一同、笑顔で列車から降りていった。

品川駅の特徴を生かした内容で

 東京都内でJR車両の一般公開を行なうとき、品川駅が会場となることが多い。今年7月6・7日には「SLばんえつ物語号」のC57形180号機と、「きらきらうえつ」の展示会・体験乗車イベントが行なわれた。同駅にはふだんは使われない臨時ホーム9・10番線があり、車両を長時間停められるスペースがあるためだ。これら品川駅でのほとんどのイベントには、体験乗車が組み込まれている。「わくわく品川鉄道探検隊」もそうであったが、駅長によれば、「列車に乗る」ことがポイントだと言う。構内は南北に約3kmの長さがある。この地の利を活かして、わずか数百mでもよいから実際に乗れば、旅気分が味わえ、より鉄道に親しみがわいてくる。「見る」だけより「ふれる」「乗る」ほうが印象は何倍も濃くなる。

 そこには、鉄道を好きになってもらいたい、レールファンを増やしていきたいという思いがある。軌道自転車の運転やマルタイの運転席に座っての記念撮影など、親子連れが参加しやすい内容、夏休み最後の週に行なうことも、夏の思い出づくりに役立てて子供たちに「鉄道の応援団」になってもらいたいという期待が込められている。さらに突き詰めれば列車に乗ってもらってはじめて鉄道会社は収益が出るのだから、ファンの拡大を図ることは、増収にもつながる。先述の「きらきらうえつ」展示で車両を気に入った人が、実際に新潟まで乗りに行ったとの話も伝わっている。ACトレインを展示したのも、次世代の列車を見せることで、JR東日本の施策をアピールしている。

 加えて保線車両を展示することで、ふだんは乗客と直接は接しない保線社員が乗客と会話を交わして、自分たちの仕事を説明する喜びがわき起こり、仕事に対する誇りも生まれる。

 また、乗客に対しては鉄道好きを作ってゆく、社員には乗客とじかに接することで仕事に対する意識の向上を図るという効果を生み、ひいては鉄道を育ててゆくことにつながっているようだ。

(2002年11月号: ファンの拡大を図る 品川鉄道探検隊

 


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:57:08 JST