JR東日本の「夢空間」客車

 JR東日本が1989年3月、将来の寝台列車を思い描いて製造した車両が「夢空間」である。JR発足から2年を経て新会社の施策が具現化してきた時期であり、さらに直接的なきっかけは、同時期に開幕した「横浜博覧会」であった。博覧会は、現在のみなとみらい21地区で開催され、会場内のアトラクションとはいえHSSTが初めて営業運転を行ない、現在は三陸鉄道で活躍するレトロ気動車が旧臨港線を走るなど、乗り物の話題も豊富だった。「夢空間」は、その博覧会会場の玄関となった桜木町駅前での展示公開に向けて、誕生した。

 好景気の絶頂、前年にJR東日本はヨーロッパから「オリエント急行」を呼び寄せて日本国内で運転しており、豪華列車に対する気運が盛り上がっていた時期でもある。

 車両は3両あり、デラックススリーパーのオロネ25 901、ラウンジカーのオハフ25 901、編成最後部に連結するダイニングカーのオシ25 901の陣容で、形式や実際の姿からも24系25形がベースであるとわかるが、すでに誕生していた「北斗星」のような改造車ではなく、完全な新製車である。

 オロネ25 901はセミダブルベッドとリビングルーム、サニタリーで構成されるエクセレントスイート1室、シングルベッド2つとサニタリーで構成されるスーペリアツイン2室で、1両の定員は6人。オハフ25 901は、車内中央に半円形のバーカウンターを配して調度としてアップライトピアノも備えている。オシ25 901は、後部展望もあわせて眺望のよいダイニングルームと4人席の個室を備えており、フランス料理主体の本格的ディナーが楽しめる。内装はそれぞれ高島屋、松屋、東急百貨店が競って作り上げたものだ。

 横浜博閉幕まで展示されたのちは線路に乗り、同年10月25日、JR東日本が主催した世界鉄道デザイン会議の特別列車として海外からの参加者を乗せ、日光〜池袋間に初運転されている。その後は「北斗星」のスペシャル版臨時列車として、トマム方面へのスキー列車で一般営業を開始した。

 しかし当時の運転は、夏あるいは秋を含めて、各シーズンピークの数日のみで、稼働率としてはきわめて低かったといえる。

 ところが、2〜3年前から急速に運転回数が増えた。JR東日本では最近、保有する車両をさまざまに活用して潜在需要の掘り起こしを積極的に行なうようになり、国鉄色に復元した車両でのイベント運転なども一例という。このような流れの中で、車両を可能な限り有効活用するためにも、運行回数が増やされているようである。

 好不況にかかわらず、贅沢な旅行をしたいとの願望はあるもので、それが「夢空間」を支えている。運転にさいしては、「北斗星」用寝台車もあわせて編成されるが、まずは「夢空間」本体のデラックススリーパーに人気が集中する。なにしろ6人という狭き門なので、この車両やディナーが予約できなければ、旅程を変更したり、旅行自体がキャンセルされることも多い。

 こうした状況に支えられて本年度、12月時点までの稼働予定日数は97日に達し、もはやオフシーズン以外では余裕がない。運転区間も、当初は北海道方面だったが、デスティネーションキャンペーンなどにあわせて4〜5月には北陸本線経由で上野〜大阪・神戸間、7〜8月、10月には羽越本線経由で東北方面にも運転されている。

 なお、定員の少ない特別車両のために団体列車にはなじまず、ほとんど時刻表掲載の多客臨時列車として運転されている。その点では乗車チャンスはだれにもある。

(2002年11月号)


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:57:09 JST