列車内でのモバイル IPv6 無線LAN実証実験

 インターネットがパソコン・携帯電話だけでなく、さまざまなシーンで使用されるようになってきた。今後もインターネットを利用する人、つながる機器が増えると予想され、機器の「住所」に相当するIPアドレス数が足りなくなると考えられている。従来は、IPv4(Internet Protocol Version 4)というIPアドレスが使われてきたが、これは43億個しか使えない。世界中のさまざまな機器がインターネットにつながるようになると、当然足りなくなる。この問題を解決するために開発された方式がIPv6(Internet Protocol Version6)である。IPv4のアドレス空間を1mmとすると、IPv6の空間は銀河系の直径の80倍もの広さがあるといわれ、あらゆる機器にIPアドレスが割り当てられて、インターネットを利用してさまざまなことができるようになるとされている。例えば、留守中の家に監視用カメラを設置し、インターネットを接続すれば、家主は遠隔地から室内の様子を知ることができる。

 IPv6の実用化には、IPv4をたくさん保有しているアメリカはあまり熱心でなく、ITを進めていきたい日本、次いでヨーロッパが積極的とのこと。

 今年の2月から3月末日までハイテク企業のノキア・ジャパンが主幹となり、小田急電鉄・京浜急行電鉄両社の特急列車内で無線LANインターネット実証実験を行なっている。これは総務省の外郭団体である通信・放送機構の統括する「情報家電インターネット技術研究開発」プロジェクトのうち、「公衆ブロードバンド無線アクセスサービスに関する実証実験」の一環で、「モバイルIPv6無線LANアクセスサービス」のフィールドテストを列車等公共交通機関の乗客を対象として実施する「モバイルIPv6@トレイン」の実証実験である。京急がモニターを募って「京急ウイング号」内で行なうのに対し、小田急は30000形特急車両ロマンスカーEXEの1号車に乗車した不特定の人にノートパソコンを貸与して進めている。この実証実験は、モバイルサーバーの耐久試験および接続試験、無線LANアクセスポイントの接続実験、スマートカードによるユーザー認証試験、一般ユーザーによるサービス検証実験などが盛り込まれており、実用化に向けてのデータを採取している。

ロマンスカーを使用した実証実験

 小田急は線路脇に賃貸用の光ファイバーケーブルを敷設し、インターネット接続業者・ケーブルテレビ事業者などに賃貸する事業も行なっており、沿線住民はより快適な環境でインターネットを楽しむことができる。このように小田急は今回の実証実験を行なうインフラが整備されている。

 今回の「モバイルIPv6@トレイン」は、この光ファイバーケーブルを利用している。経堂にあるインターネットサーバーから光ファイバーケーブルを通ってきたデータは新宿駅1番線ホームの小田原方の鉄柱に設けられた無線LANアクセスポイント(アンテナ)に送られ、停車中のEXEの運転室に設置された車内用サーバーが随時更新して車内に配信していく。実験用コンテンツを閲覧するには、1編成7台準備された専用のノートパソコンで楽しむ。このパソコンで鉄道ジャーナル社のホームページなど、一般のホームページの閲覧も可能である。

 実験用コンテンツは動画が中心で、サッカーやスノーボードの試合、アニメ、音楽ビデオ、ニュース、箱根の観光案内など、1本あたり3〜60分のビデオストリーミングで構成されている。ほかにも、新聞の朝夕刊電子配達版、コミックなども含まれている。アニメや音楽ビデオは人気が高いようだ。車内用サーバーの車内無線LANアクセスは11Mbps(ISDNは64kbps、ADSLは1.5〜8Mbps)、パソコンのIPアドレス認証、および一般のホームページを閲覧するため、携帯電話と同じ64kbpsで車外にも電波を飛ばしている。

 実際にEXEに乗車し、新宿〜小田原間で試してみた。貸し出されたパソコンは、座席に内蔵されているテーブルに乗るサイズである。まず、サッカーを見てみる。同乗のスタッフから、ストーリミングのビットレートは300kbpsでテレビ並と説明された。たまに音声と映像がずれたりしたが、それは貸し出されたパソコンのCPUの処理能力が影響しているとのこと。その後、スノーボードや音楽ビデオ、箱根のビデオを見ているうちに、小田原に着いた。まったく退屈せず、新宿からの1時間はあっという間だった。

 車内でのコンテンツ配信がふつうになってゆけば、事業化することも考えられる。「あのコンテンツがあるからロマンスカーに乗ってみたい」といった意識も生まれるかもしれない。

(2002年5月号: 列車内でのモバイル IPv6 無線LAN実証実験)

 


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:57:09 JST