列車トイレ 今昔

 列車のトイレは長らく開放式で、不衛生であったし地上作業員の困惑や沿線への迷惑も計り知れなかった。はるか以前はともかく次第に衛生観念も高まってきた1960年代ごろから問題になり始め、「黄害」の言葉を生み、停車中のトイレ使用禁止に加え、都市区間内を走行中はトイレを閉鎖したりする措置がとられた。

 この問題を根本的に解決したのは1964年(昭39)に開業した新幹線で、高速運転ということから当然でもあった。最初は床下にタンクを設けて貯留し、車両基地に戻ったさいに抜き取る方式であったが、この方式は頻繁に抜き取り処理をしないとタンクがいっぱいになる欠点があり、在来線の長時間運転などには使用できなかった。そこで次に、循環式が開発された。洗浄水を薬剤で殺菌処理、濾過して循環使用することにより、タンクには汚物だけを貯める方式である。これで抜き取り間隔を広げることができ、長距離運転の列車でも使用が可能になった。また、床下が運転関係の機器で埋まっている場合などに、汚物処理装置をコンパクトにできるメリットもあった。

 こうして、新幹線はもとより在来線でも循環式汚物処理装置の装備は標準的なものとなってゆき、1987年に運輸省令として定められた普通鉄道構造規則では、列車トイレは原則としてタンク式とするように規定されることとなった。

開放式トイレ

 しかし、既存の車両の改造は、構造上の制約や、車両側装置と対になる地上処理装置の問題、さらに車両の耐用年数なども勘案したうえでの処理となり、短期間にすべてが行なわれたわけではない。普通鉄道構造規則の施行から10年が経過しても、JR旅客各社には開放式トイレの車両は約1,400両が残っていた。

 このため運輸省は、1997年12月にさらに通達を出し、2000年度末までに原則としてタンク式等に改良するよう求めた。このなかでは、年度ごとの改善実施計画と、改善実施状況の報告を求め、工事が完了するまでの間、開放式トイレの車両は都市部での使用制限を行なうこととした。

 この期限が、本年3月末となったわけである。各社とも、未改造の経年の高い車両は新型車両への置換えが進み、開放式トイレの車両は格段に減っている。それでも一部に未改造の車両は残っており、これらについてはトイレを閉鎖するなどの措置が取られることとなった。

 一例として、JR九州の筑豊本線に残っていた50系客車については、運用が朝晩の通勤時間帯に限られており、10月の電化による廃止が迫っている現況では改造は非効率であるため未改造のまま閉鎖したが、そのままではトイレの設備がなくなってしまうため、循環式タンクを備えた12系を1両連結して対処することとしている。

 なお、鉄道車両のトイレは循環式になり外への排出の点では大きな改善を見たが、臭気など車内環境の面ではまだまだ課題も多い。このため、新たなものとして牛乳瓶1本程度の新鮮な水で洗浄でき、洗浄水による臭気も発しにくい真空吸引式トイレがJR九州の特急電車などから普及し始めている。トイレ直下に大きなタンクを備えなくてもよいため、JR東日本の寝台特急「カシオペア」のように、トイレを全個室内に装備するようなことも可能になった。

 また、タンクに貯まった固形物のみを乾燥させて処理する乾燥式や、バクテリアの力により浄化するバイオ式などが開発・試用された車両もある。

(2001年7月号)


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:57:10 JST