腕木式信号機

 JR東海の名松線家城駅で使われていた腕木式信号機が1月26日限りで廃止され、翌27日からは2位式色灯式信号機に替えられた。これにより、JR東海の管内から腕木式信号機はすべてなくなった。

 腕木式信号機は、信号機の支柱の上部にほぼ長方形の腕木を取り付け、腕木の角度で信号を現示する。腕木は、ワイヤーとロッドを介して駅本屋の駅長事務室付近に設置された信号てこと結ばれ、駅長がてこを倒すことで切り替わる。このため機械式と呼ばれ、色灯を用いる信号機とは区分されている。

 もともと、イギリスで鉄道が発祥した当初の信号は、駅の係員が発車(進行)のときは自らの腕を水平に上げ、下げた状態で停止を示すものとして始まったとされるが、ほどなく腕木式信号機が登場した。現在、日本で使われている腕木式信号機は、腕木の角度で2種類の信号を現示できる2位式であるが、以前は3位式も使われたようだ。

 腕木式信号機は、駅長が操作することから考えても、タブレット閉塞式(通票閉塞式)などの非自動閉塞方式と一体になっている。タブレット閉塞式は、駅長が隣接駅とのあいだで列車運転のつど、閉塞機を使用して打ち合わせることで閉塞を構成し、相手駅へ向けて列車の出発を許可する。てこを操作して出発信号機を進行に切り替え、該当区間のタブレットを運転士に手渡すことで、列車は出発できる。単線の駅間に、確実に1個列車のみを運転するためのシステムである。

 非自動区間で運転扱いを行なう駅には、場内信号機と出発信号機があり、これらを主信号機と呼ぶ。腕木の色は赤地に白帯で、長さは場内信号機が1,200mm、出発信号機はやや短い900mmと定められている。これらの信号機は「停止」が定位で腕木は常時は水平になっており、「進行」を現示するときに腕木を斜め下に倒す。万一、ワイヤーが切れた場合などは、付属する錘により腕木は水平に復位する仕組となっている。また、夜間など見えにくい場合に備えて、腕木には眼鏡のような2つの色付きレンズを取り付け、後部に光源を配することにより、腕木の角度変化とともにレンズのどちらかに光を当てて、赤・緑の色を発色させる仕組となっている。

 ところで、タブレット閉塞式は1980年代までローカル線を中心に相当数の路線で施行されてきたが、逐次、自動閉塞式に置き換えられて、現在では全国的にもごく一部の路線に残るだけとなっている。その場合も、腕木式信号機のもつ機械的構造の弱点をなくすことと、周囲の明るさや背景の状態に影響されやすい視認性の弱点を抱えているため、順次、スイッチ一つで電気的に操作できる色灯式に置き換えられてきた。これらの線区では運転方式も単純で、行き違い駅では発条転轍器、いわゆるスプリングポイントを使用し、通常は転轍器の転換を行なわないことも、腕木式信号機の置換えを促進した。

 そうした経緯で、腕木式信号機は全国的にも風前の灯という状態になっている。

(2004年5月号)

 


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:57:11 JST