ATS †ATSは、Automatic Train Stop(自動列車停止装置)の頭文字をとったもので、鉄道の安全システムの中でも、中核となる。現JRで一般的に使用しているATSは、国鉄が1962年に起きた三河島事故(常磐線)を契機に、1966年に全線に設置したものがベースである。以前から停止信号冒進に対し警報を発する車内警報装置が導入されていたが、警報のみでは不十分として、非常ブレーキにより停車させるATSに発展した。電車区間など稠密路線で軌道回路を用いたものをB型、地上子を置く点制御式のものをS型と称した。 これらのシステムは、列車が停止信号に接近(当該地上子を通過、あるいは軌道回路に進入)すると、信号確認を促す警報を発し、5秒以内に運転士が「確認」ボタンを押す確認扱いがなされないと、自動的に非常ブレーキをかける。しかし、このS型やB型も「確認扱い後」の運転はすべて運転士に委ねられており、停止信号により停止したのちは、確認動作のマンネリ化などがミスにつながる懸念があったことから、さらなる対策が求められることになった。 新たなATSとして先行したのは、都市路線に設置が進むATS-Pであるが、その後、一般にはATS-SNタイプが普及した。また、これより早く、運転車両が限定されるなど特定条件を満たした都市路線などでは、新幹線にならったATC(列車自動制御装置)が導入された。JR在来線のATC線区は、1971年の常磐緩行線が始まりで、以後、横須賀・総武快速線の地下区間(現在はATS-Pに変更)、山手・京浜東北線、埼京線(一部を除く)、それに海峡線である。 さて、現在のJRにおいて一般的となっているATS-SNタイプは、「ATS-Sの新型」の意味で、1989年、JR東日本川越線への導入から始まった。確認扱いをしていったん停車したのち、停止信号を越えて運転しようとしても、再度の警報と非常ブレーキが作動する。また、2つの地上子間の通過時間から速度を割り出す速度照査機能を有し、地上子を適切に設けることにより分岐器や曲線の制限区間で速度の超過があれば、非常ブレーキを作動させる。 ATS-SNは、JR東日本では1991年に全線の設置を完了した。他社でも基本的に同様の機能(上記の速度演算方法で2種類がある)のものが同時期以降に設置されている。JR北海道はATS-SNと称するが他社は末尾が異なり、JR東海がST、JR西日本がSW、JR四国がSS、JR九州がSK、JR貨物はSFと称している。 一方、ATS-Pは、1980年に関西本線で試行されたのち、山陽本線西明石など一部の駅や車両への導入、改良を経て、1988年のJR東日本京葉線新木場〜蘇我間開業から本格的導入の時代を迎えている。現行の機能はATCに匹敵するレベルをもつが、車上信号方式への切替えなど大掛りな刷新をせずとも導入が可能な方式として、JR東日本とJR西日本の都市型路線などで使用されている。 ATS-Pは、地上と車上の双方向で多情報を伝達できるトランスポンダを用いる。信号機手前に設置された地上子から停止位置までの距離情報などが車上に送信され、車上では車両性能に応じた減速パターンを発生させて、これと実際の速度を比較して超過している場合にはブレーキをかける。信号現示が上位に変わらない限り減速パターンは消えないので、これにより、常用ブレーキ(最大)により、停止信号手前に停車させることが可能になっている。この「速度照査機能」が大きな特徴で、PはPatternの頭文字である。 ATS-Pも、あくまでATCとは異なるバックアップシステムであり、通常の運転操縦は運転士が行なうが、常用ブレーキによるため、照査を緻密に行ない終端駅の進入速度を高めてロスの少ないダイヤを組んだり、速度制限に対してはパターン内に復帰すればブレーキは緩解することから、分岐器や曲線・勾配で速度を監視、調整する役割も可能となった。さらに、保安装置によるブレーキと非常ブレーキのさい、その前後の力行やブレーキの指令、速度や時間などが記録されるメモリ機能も有している。 JR東日本では、首都圏100km圏の主要区間(拡大中)のほか、新在直通運転の在来線区間や、松本・いわきにも達している。JR西日本は近畿圏の中心路線(区間)に導入してきたが、2010年度までに同圏内の95%まで普及させる考えを打ち出している。 なお、民鉄では名鉄が他社に先駆けて1965年にATSの導入に着手したが、運輸省(現国土交通省)において大都市圏の民鉄を対象にATSの設置基準を制定、これにより他の各社でも1967〜70年にかけて設置が進んだ。民鉄のシステムは機能に多少の違いはあるが当初から速度照査機能を有し、その後の改良によりATCに近い機能を備えるシステムも見られるようになっている。 (2005年8月号)
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