JR本州3社の完全民営化

 2000年12月5日に第2次森改造内閣の発足により、2001年1月からの省庁再編にともない運輸・建設・国土・北海道開発の4省庁を統合して発足する国土交通省の初代大臣に保守党党首の扇千景氏の就任が決まった。同氏は同日夜の初閣議後の記者会見の席上、JRの完全民営化について、「国鉄改革により今の民間のJRになって見違えるようになり、国民の賛同も得られていると思う。完全民営化が正しい姿で、そうあるべき」との考えを示した。

 また、運輸省の梅崎壽事務次官は同月7日の記者会見で、先の扇大臣の発言を受けてJRの完全民営化に必要な「JR会社法」の改正について、「早期の完全民営化が政府の方針であり、基本的には次期通常国会に提出する方向」と語っている。

 ここで語られているJR各社の完全民営化の動向について、簡単に解説する。

 JR会社法は、1987年の国鉄分割民営化により発足した新鉄道会社(旅客6社と貨物1社)を規定するもので、正しくは「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律」という。この法律は、設立の経緯からJR各社を法律により強制的に設立した特殊会社と位置付けており、定款の作成・変更、利益の処分、代表取締役の選解任、重要な財産の譲渡、新株・社債の発行など経営の大部分について運輸大臣の認可を義務付けている。財務諸表や営業報告書の提出も義務付けられているほか、株式も当初すべてを日本国有鉄道清算事業団、つまり実質的には政府が保有していた。

 このJR株式は、JR東日本が1993年10月に400万株のうちの250万株を初めて上場し、以後、JR西日本が1996年10月に200万株のうち136万株、JR東海が1997年10月に224万株のうち150万株、続いてJR東日本は1999年7月に2次売却分として100万株を売り出している。

 JR各社は、国鉄清算事業団保有の残りの株式が売却されて、完全民営化されれば先述の制約から解放され、自主自立の経営ができるため、本来はこれを望む立場にある。しかし実際には、JR本州3社のうちでもJR東日本・JR西日本とJR東海で異なる立場をとっている。前2社は、自由な経営を行なうためには政府保有の株式をすべて市場に売却して、JR会社法の適用から除外されることを望んでいる。一方、JR東海は、民営化のさいにJR旅客本州3社とJR貨物に割り振られた旧国鉄債務計14.5兆円の負担割合が、東海道新幹線の収益性が非常に高いと判断されたために大きく、新幹線施設買取りにともなう負担増もあって財務面で現在も重くのしかかっている。完全民営化を果たすとなれば、この債務処理について国の支援を求めるなどの可能性が絶たれてしまうことになるからだ。

 運輸省(新年からは国土交通省)は3社同時の完全民営化をめざす立場をとっているが、JR東海については実情も理解できるために税制面の優遇も考えられるとしている。ただし、この措置には大蔵省(財務省)が反対しており、足並をそろえることはむずかしい。今後の状況によっては、JR東日本とJR西日本が先行して完全民営化に踏み切るケースもありうるようだ。

(2001年3月号)


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:56:30 JST