LRT

 本誌をはじめ路面電車を話題にするさいに出てくる言葉に、「LRT」や「LRV」がある。LRTLight Rail Transit の略で、直訳すれば軽量軌道輸送機関となり範囲は広いが、一般的な実態に即して狭義に定義付けると、高品位路面電車システムということになるだろう。LRVは Light Rail Vehicleの略で、その乗り物であるから、車両本体を指すと解釈できる。世界的には趨勢となっている超低床路面電車が日本でも1997年の熊本市を皮切りに導入が始まっており、とくにこれを称する場合が多い。

 日本において路面電車は道路上を走るノスタルジックな電車ととらえられ、輸送力も小さく、高速性能は期待されない。現在も軌道法では電車の長さは最長30mで、大型化には特認を受ける必要があり、走行速度は40km/h以下と定められている。こうした状況から、たんに高品位の路面電車と表現しても、日本では車両が近代化されて乗り心地も改善、騒音が少なくなったという評価にとどまりがちであった。したがって、既存の路面電車の走行環境の改善という以上に、新規に導入するという発想にはなかなか結びつかなかった。

 しかし、LRTの本質は、車両や直接的な線路設備の良し悪しではない。海外の事例を見ると、交通システムの全体像をとらえる必要があることがわかる。

 もともと海外の路面電車の多くは編成運転を行ない輸送力は大きく、バスや他鉄道と連携した単純な運賃制度や、車内の運賃収受廃止などで乗降時間を短縮したことなども、速達性を高める手段として有効に作用した。また、専用軌道を多用し、必要があれば高架や地下構造も導入している。路面区間では優先信号の設置や自動車の流入規制など、電車のスムーズな運行をもたらす方策を進めている。加えて、周辺の電車停留所に大型駐車場を設け、マイカーからの乗換えを誘導する。一方、中心部は歩行者モールなどを低速走行させ、繁華街等での近距離の移動にも使い勝手をよくする。こうした総合的な施策によって便利さが評価されるように作り替えてきたのである。

 郊外に路線を延ばす事例が多いのは、広大な駐車場の確保に有利なことも大きな理由で、そのために廃止された鉄道線を活用するケースも多い。最近の話題としては、より遠方をカバーするためにドイツなどで幹線鉄道に直通させ幹線筋のローカル輸送にきめ細かさを加える成功例が見られる。

 すなわち、核となる都市中心部に人の活気を取り戻すため、都市のインフラに位置付けて全体の利便性を高めるシステムを築くことがLRTの本質であろう。都市部での軌道系中量輸送機関としてはモノレールなど新交通システムが導入されてきたが、LRTは、建設・運行・維持が比較的容易で低コストであるほか、アクセスの簡便さなどから大きな効果を期待できる。そのことが、LRTのLightの意味するところという受け止め方をされるようになった。

 日本でもLRTへの期待は市民団体などが潮流を作っており、規制緩和の中で選択の幅が広がりつつあることから研究や検討を始めた自治体も多い。しかし、市街地に軌道を新たに敷設するのは容易ではなく、さらに従来型の採算重視のもとではまだ壁が高い。一方、郊外鉄道との直通運転の事例などから、都市周辺部の既設鉄道線について低コストで維持を図るとともに再生をめざす手段として、LRTのシステムに着目して検討を始める動きも現われてきた。

(2003年6月号)

 


Last-modified: Sat, 24 Oct 2009 20:56:31 JST