PiTaPaのポストペイサービス †公共交通機関の乗車券機能を持つ、非接触式ICカードの導入が急速に広まっている。日本で最初の実用化はバス会社(東急トランセ、1998年)であったが、システム全般の規模を格段に引き上げたJR東日本の「Suica」が2001年11月に首都圏でスタートしたことで一気に認知度が高まった。仙台圏や、今後は新潟圏にも広がる。Suicaを追って2003年11月にJR西日本が「ICOCA」を近畿圏のアーバンネットワークに展開を開始、そして「スルッとKANSAI」を組織する関西の民鉄42社局でも「PiTaPa」(ピタパ)の愛称で導入が本格化し、まずは2004年8月1日に阪急電鉄・京阪電気鉄道・能勢電鉄の3社がスタートさせた。 こうしたアルファベットの愛称は、多くの場合、特質を表わす英文や単語をうまく組み合わせて頭文字を拾ったものだが、PiTaPaは「Postpay IC for “Touch and Pay”」の略である。そして、最初の単語のPostpay(ポストペイ)が、SuicaやICOCAにないPiTaPaの最大の特徴を示している。 ポストペイとは、後払いのことである。これまでの鉄道運賃は、常識的に乗車前の切符を購入するさいに支払うものであり、その考えは磁気カードやICカードになっても踏襲されていた。つまり、SuicaやICOCAの先行事例では、事前にカードに任意の金額をチャージ(積み増し)しておき、その中から乗車のつど、運賃ぶんを差し引くものであった。カード内の金額が底をついた場合、自ら再チャージするアクションが必要になる。 これに対して、ポストペイはその必要がない。鉄道においては世界初であり、革新的なサービスである。乗車ごとのデータが1ヵ月間蓄積され、そのあと利用者指定の金融機関口座から、月次でまとめて金額が引き落とされる「少額決済」の仕組である。このため、カードは窓口で即時発行とはいかず、氏名・住所や引き落とし口座等を記入して申し込み、審査を経て約2〜4週間後にカードが送付される手順となるが、一度登録すれば、一般に5年ごとの更新を経つつ恒久的に使える。口座をもつ本人用カードのほか年齢などに応じた家族用カードも用意され、紛失時の使用停止と再発行も可能である。 ポストペイでは、入出場時に残額を気にする必要がないほか、携帯電話などのように利用実績に応じた割引が可能になる。概要としては、「利用回数割引」が従来の回数券に相当し、一定期間内に同じ金額区間を11回以上利用すると適用され、事前に特定の利用区間を登録しておく「区間指定割引」、つまり定期券相当の機能にすると、その区間は何回利用しても1ヵ月定期の金額を超過しない。 さらに割引率やサービスの詳細は事業者ごとに独自の展開がある。一例として阪急・能勢では、「区間指定割引」を2ヵ月以上継続すると次第に割引率が高まる。一方の京阪はマイレージ制度を導入、「区間指定割引」は1ヵ月単位(要は1ヵ月定期のみ)だが、2ヵ月目以後はポイント還元率を高めている。このマイレージポイントは、京阪グループで使用可能な金券に交換できる。 また、PiTaPaが鉄道の乗車券としての機能だけでなく、グループ会社などの加盟店で買い物にも利用できる電子マネー機能を最初から抱き合わせて展開する点は、ICカードの多機能性を大いに発揮するものである。 現在のところ、先行的に導入したのは3社であるが、大阪市交通局はじめ他社も順次参画が見込まれている。また、ICOCAやSuicaなど、他のICカード式乗車券との相互利用化も図られる予定になっている。 (2004年11月号)
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